日本ダービーかNHKマイルCか、来春までじっくり見守りたい
文/浅田知広、写真/森鷹史
いまだにうっかりすると
「夏の新潟2歳王者決定戦」などと書きたくなってしまう、
新潟2歳Sである。今年は登録の段階から、新潟の
新馬戦優勝馬は
オーデットエール1頭だけ。
新馬戦の開幕が早まり、新潟開催自体が短縮され、そして夏の新潟最終週から1週繰り上がりと、さまざまな要因が重なって、単なる
「新潟で行われる2歳重賞」ということになった。
ほかに過去5年、前走左回り
[5.3.3.53]、右回りは
[0.2.2.19]なんてデータもあるにはあるが、そもそも人気馬が左回りの出走馬が中心。1400m以上の
新馬を勝ってきた馬、などと言っても、どうにも決め手に欠けるデータしか出て来ない。
そうなると、なんとなく血統に目が行くのだが、今年は特に
「役者」が揃った印象だった。1番人気に推された
ムスコローソは、ドゥラメンテなど活躍馬続出の
ダイナカールの系統。続く2番人気
テンクウは、兄が去年の③着馬イブキ……というより叔父モノポールに、POGやら馬券やら、いろいろ思い出がある人も多いだろう。
そして、3番人気の
フロンティアはステイゴールドなどの一族。4番人気
プレトリアはダイワスカーレットらと同牝系で、祖母は00年優勝のダイワルージュ。まあ、土曜の晩にあれこれ居酒屋(別にネットでもなんでもいいが)で思い出を交えて語るにはいいメンツが揃ったものだ。
そんなメンバーで、さてなにが行くのかと思えば、最初の1ハロンが
13秒1でなかなか定まらない、という入り。結局、大外から「サウスヴィグラスのめい」
コーディエライト(5番人気)がじんわりとハナを切り、2番手には
フロンティア。
テンクウはそれらを前に見て好位の一角で、
プレトリアはその直後と、人気どころは中団から前あたりを占めていた。
さて、1番人気の
ムスコローソはどこにいるんだ。スタート直後はそれなりの位置にいたのでいったん目を離したのだが、最内枠が災いしたところもあったようで、掛かり気味になったのを抑えている間に、いつの間にやら後方集団。4コーナーではほぼ最後方を併走という状態だ。
ゆったりしたスタートから、2ハロン目こそ
11秒2を刻んだものの、その後は
12秒3-
12秒7-
12秒3。先頭の
コーディエライトこそ2馬身ほど抜けてはいたものの、見た目にもスローだっただけに、
ムスコローソの4角ほぼ最後方はまず厳しい。いや、厳しいはずなのだが、なにせこのレース。ハープスターやロードクエストの
衝撃的な走りがあっただけに断言はできなかったが、今年の
ムスコローソは直線内からいったんやや伸びかけるまで。優勝の行方は前の馬に絞られた。
その「前の馬」の争いがまた熱かった。逃げた
コーディエライトの内から
テンクウ、外から
フロンティアが並びかけ、残り400mあたりで横一線。ここから3頭がじわじわと後続を突き放しはじめ、その差は2馬身、3馬身。態勢的には逃げた
コーディエライトが苦しいかと思いきや、外の
フロンティアと併せ馬の形でもうひと伸び、内の
テンクウも前が止まろうものなら一気に交わし去らんと食らいつく、力の入る追い比べとなった。
この争いを制したのは、ゴール前でもうひと伸びを見せた
フロンティア。そして止まりかけた
コーディエライトに
テンクウが迫ったものの、ここは
コーディエライトが②着を死守し、③着に
テンクウ。その後ろは4馬身の差がついていた。上がり3ハロンのタイムだけみれば、もっとも速かったのは
テンクウの
32秒6だが、最後まで脚があったのは32秒9の
フロンティアという印象だ。
先に触れたように、
フロンティアはステイゴールドなどと同牝系で、牡馬クラシック三冠で
②③②着だったドリームパスポートの半弟という血統。そのドリームパスポートが
フジキセキ産駒にしては距離の融通が利いたため、
ダイワメジャー産駒の
フロンティアも幅広い距離に対応してきて不思議はない。
前走は中京のマイル戦を逃げ切ったが、今回は、スタート直後の先頭から
コーディエライトに先を譲り、直線で再び交わし去るという、先を見据えたような競馬になった。しかも、800m49秒6というマイル戦としては超スローで、中~長距離のペースへ向けてはいい予行演習になった。
これなら、
夏の「左回り」2歳王者が、来年5月には府中の大舞台で……という可能性も十分。その大舞台が、牝系の底力も活かして
日本ダービーとなるのか、それともやっぱり
ダイワメジャー産駒ということで
NHKマイルCになるのか。これから気性的に行きたがる面が強く出たりしないかどうか、来年春までじっくり見守りたい存在だ。