未知の激流で末脚の輝きが増した
文/編集部(M)、写真/佐々木光
これまでの惜敗続きが嘘のよう、とは、まさにこのことだろう。今年に入ってから②③③②②着という成績だった
グランシルクが直線で後続を突き放し、最後は
田辺騎手が抑える余裕も見せて快勝した。10度目の挑戦にして、
初の重賞タイトル獲得となった。
グランシルクは
中京記念で②着となり、今回はそこから中6週の臨戦だった。
中京記念を勝利した
ウインガニオンと③着の
ブラックムーンは
関屋記念へ向かったが、この馬は照準を中山のこの舞台に合わせてきた。
新潟では出走歴がなく、中山では過去に2勝を挙げている馬だから、このような選択になったのかもしれないが、別定の
関屋記念よりもハンデ戦の
京成杯AHを選ぶことには、それなりの勇気が必要だったのではないか。
グランシルクは左回りでも2勝を挙げていて、
中京記念の内容を考えても新潟芝外1600mがダメではなかっただろう。それよりも、間隔を取り、
万全の態勢で臨むことを選択したのだろう。
過去のデータも参考にした、ということではないだろうが、近年の
京成杯AHでは、
関屋記念を使われてきた馬が勝てないケースが続いている。3年前に
クラレントが
関屋記念→
京成杯AHと連覇しているが、その時は
新潟開催だった。中山での京成杯AHでは、前走
関屋記念組の勝ち馬が96年
クラウンシチーまで遡る。
新潟と中山ではコース形態が大きく異なるからこのような結果になっているのかもしれないが、前走
関屋記念組が勝てていないのは好走馬だけじゃなく、凡走した馬にも言えることだ。それを考えると、
関屋記念からの
ローテーション(中3~5週)が影響しているのだろうか。暑い時期に続けて走ることがこたえている可能性もありそうだ。
今回の
グランシルクは前走の
中京記念に比べて馬体重が増減なしの504kgで、
関屋記念を制してきた
マルターズアポジーも増減なし(528kg)だった。3番人気に推された3歳馬の
ボンセルヴィーソも
NHKマイルC以来だったが、増減なし(462kg)で、上位人気の3頭は馬体重だけを見ればいずれもきっちり作られてきた印象だったが、中身は違った部分もあったのかもしれない。
グランシルクは今回が重賞初制覇だが、OPを勝利したのも初めてで、これまでOPのレースには14回出走している(すべて芝1400~1600m)。その14戦では[0.4.4.6]という成績で、
前半4Fと
5Fのレースラップを見ると次のようになっている。
【グランシルクが出走したOPのレース】
レース |
着順 |
前半4F |
前半5F |
15年ニュージーランドT |
②着 |
47秒2 |
59秒0 |
15年NHKマイルC |
5着 |
47秒2 |
59秒3 |
15年京成杯AH |
4着 |
47秒0 |
58秒7 |
15年富士S |
6着 |
47秒0 |
59秒0 |
15年キャピタルS |
③着 |
47秒2 |
58秒9 |
16年ニューイヤーS |
③着 |
48秒6 |
60秒4 |
16年東京新聞杯 |
10着 |
48秒4 |
60秒6 |
16年東風S |
6着 |
47秒4 |
59秒2 |
16年阪神C |
7着 |
46秒5 |
58秒1 |
17年ニューイヤーS |
②着 |
46秒8 |
58秒6 |
17年ダービー卿CT |
③着 |
48秒2 |
60秒0 |
17年京王杯SC |
③着 |
49秒0 |
60秒6 |
17年パラダイスS |
②着 |
47秒2 |
58秒1 |
17年中京記念 |
②着 |
46秒3 |
58秒4 |
17年京成杯AH |
①着 |
45秒8 |
57秒1 |
過去14戦での最速の前半4Fは今年の
中京記念の
46秒3で、最速の前半5Fは16年
阪神Cと今年の
パラダイスSの
58秒1。それらと比較しても、今回の
京成杯AHがいかに
ハイラップになったかが分かるだろう。
マルターズアポジーが引っ張って前半4Fが
45秒8、前半5Fは
57秒1で、
グランシルクにとっては未知の流れだったわけだが、結果を見れば、この
激流が逆にマッチしたのだろう。
ペースだけを見れば、
グランシルクは
G1で淀みなく流れた方が向くタイプなのかもしれない。G1出走歴は過去一度で、3歳時に
NHKマイルCで⑤着に敗れているが、その時はペースが上がらず、レース上がりが34秒2と速くなって差し届かなかった。
中山での
京成杯AHを重ハンデ馬が制した例は、近年だと2011年の
フィフスペトル(57kg)があり、それ以前は07年に
キングストレイル(57kg)がいる。2011年の
フィフスペトルは次走に
スプリンターズSを選んで⑥着に敗れたが、その次走の
マイルCSで②着に食い込んだ。07年の
キングストレイルは次走の
スプリンターズSで0秒2差④着となっている。
今回の
グランシルクはハンデ56kgだったので、その点は考慮すべきだろうが、勝ちっぷりを振り返ると、57kgでもと思わせられる。
G1の舞台でも、
ペースの厳しさが増せば増すほど末脚が輝く可能性があるだけに、そのことは覚えておきたい。