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見事な2連覇だったが、スプリント界全体を考えると…
文/後藤正俊(ターフライター)、写真/川井博


秋のG1開幕戦となるスプリンターズSにはフルゲート16頭が揃った。ロードカナロアの引退以降、短距離界には絶対的な存在がおらず、ここも馬券的にはいきなり難解なレースとなったが、王者候補となる馬はG1馬5頭を含めてほぼ顔を揃えたことで、今後の短距離界を占う意味でも重要なレースとなった。

舞台の中山競馬場は中間にまとまった降雨があったものの、先週からCコースを使用したこともあってか荒れは目立たず、スプリント力を競うのにふさわしい良馬場。だがレースは意外なまでのスローペースで展開した。各馬好スタートからすんなりとハナに立ったワンスインナムーンの前半3ハロンは33秒9。直前の同距離だった1000万条件の勝浦特別が前半33秒4だったことを考えると、G1としてはかなり遅かった。

1番人気に推された昨年の覇者レッドファルクスは、この流れの中で道中10番手。ミルコ・デムーロ騎手だけにペース判断の間違いはないとは思っていたものの、安田記念以来4ヵ月ぶりのレースで、本来の動きにはないのかと危惧される位置取りだった。

軽快に逃げるワンスインナムーンをはじめ、先行集団は楽な手応えで3~4角に進み、レッドファルクスは4角10番手のまま外に回したが、馬群に包まれて行き場がない。万事休すかとも思われたが、デムーロ騎手がひと呼吸置いてさらに外に持ち出すと、そこからは一直線の伸び。ワンスインナムーンを飲み込むと、最内をスルスルと伸びて先頭に躍り出ていたレッツゴードンキをゴール前できっちりとクビ差差し切って、連覇のゴールを駆け抜けた。

1分7秒6の勝ちタイムは昨年とまったく同じだったが、レッドファルクスの上がり3ハロンは昨年の33秒5から0秒5詰めて33秒0。最内を突いたスノードラゴンが33秒0、レッツゴードンキが33秒1をマークしたが、外を回ってのこの切れ味は極めて価値が高い。

しんがり⑯着馬のタイムが1分8秒3だったのも昨年とまったく同じで、今年も全16頭が0秒7差の範囲に入った大混戦だったわけだが、その混戦を2連覇したレッドファルクス相手なりに走れる名馬とも言えるだろう。レース展開に左右されずに堅実に抜け出す脚は、馬券を買っているファンにとっても心強いものだった。

スプリンターズS2連覇は1990年のG1昇格後は、93、94年サクラバクシンオー、12、13年ロードカナロアに続いて3頭目。それ以前にもサクライワイ、メイワキミコしかいない。消耗の激しいスプリント戦で王座を守り続けていくことは至難の業であることが伺える。レッドファルクスは希代の名スプリンターたちと記録の上では肩を並べたことになるが、「歴史的名スプリンター」と呼べるかどうかはまだ判断がつかない。

今春の安田記念は、マイルの豪華メンバーが揃った中で0秒1差③着。グレーターロンドン、エアスピネル、ステファノス、イスラボニータといった名マイラーたちに先着した。1400mの京王杯スプリングCも重馬場を克服して快勝したようにマイラー的な要素も持ち合わせている。

また、全10勝のうち4勝はダートで挙げたもので、もしかしたらアグネスデジタルクロフネのような芝・ダート兼用の名馬になる素質があるのかもしれない。すでに6歳秋を迎えており、今後スプリント以外の分野に進む可能性はそれほど高くないだろうが、種牡馬入りしてからその異能ぶりを明確することだろう。

見事な2連覇ではあったが、スプリント界全体を考えると将来にはやや不安が残るレースだったことも確かだ。④着に9歳馬スノードラゴン、⑤着にはこれまで来日した香港勢の中では格下と思われていたブリザードが入った。4歳馬はワンスインナムーンが③着に逃げ粘ったもののスローペースに助けられた印象が強く、高松宮記念勝ち馬セイウンコウセイは⑪着、4連勝の上がり馬ダイアナヘイローは⑮着に敗退した。

レッドファルクスは今年も香港スプリントに挑戦するかもしれないが、昨年の⑫着惨敗を考えると空輸や環境の変化に不安があるのかもしれないし、同馬に替わる馬も見当たらない。今年デビューしたロードカナロア産駒の中から、世界で大暴れするスプリンターが登場してくることを心待ちにしたい。