ソウルスターリングが天皇賞・秋で巻き返すのに必要な要素は!?
文/出川塁、写真/川井博
いつか見たような光景だった。
毎日王冠で1番人気に推された牝馬が決して本意ではない逃げを打たされ、最後は差されてしまう。03年のファインモーション。08年と09年のウオッカ。そして今年は、単勝2.0倍の圧倒的な支持を集めた
ソウルスターリングが⑧着に沈んでしまった。
ハナに立つこと自体が
誤算なら、ハナに立つまでも
誤算だった。スタートから300mほど
ダイワキャグニーらと競り合うかたちとなり、
無用の消耗を強いられた。そして直線はまったくの上がり勝負となって、
ディープインパクト産駒が馬券圏内を独占。勝った
リアルスティールは上がり32秒8、②着の
サトノアラジンと③着の
グレーターロンドンはいずれも上がり32秒6の脚を使っている。
一方の
ソウルスターリングは34秒0。一見すると失速したようにも見えるが、過去の自身の上がりタイムからすれば標準程度の脚は使っている。
サンデーサイレンスの血が一滴も入らない
ソウルスターリングに、32秒台の脚を使えというほうが無理な注文なのだ。
もちろん、この流れを作ったのは他でもない
ソウルスターリングなのだから、ペースについて文句をつけられる立場ではない。上がりの勝負にならないよう、道中でもうすこし速いラップを刻むことも不可能ではなかった。だが、ここで行く気に任せた競馬をして我慢の利かない馬になってしまっては、未来も奪われてしまう。結局、このメンバー構成になり、1枠1番を引き、ハナに立たざるをえなかった時点で、敗戦は免れなかったのかもしれない。
すこし話は変わるが、昨年の
天皇賞・秋の前に
「牡馬混合戦における『紅一点状態の牝馬』」をテーマにしたデータ原稿を書いたことがある。このレースではルージュバックが唯一の牝馬として注目されており、それに合わせて調べてみたのだ。残念ながらルージュバックは⑦着に敗れることになるのだが、原稿のなかで
「紅一点状態の牝馬はG1で苦戦」というデータを確認済みだったため、個人的には納得できる結果ではあった。
そして、同じ原稿のなかでは
「紅一点状態の牝馬は1枠で苦戦」とも述べていた。まさしくこれは、
毎日王冠で1枠1番を引いた
ソウルスターリングに当てはまる。牡馬だらけのレースで1枠から揉まれ込むと相当に堪えるのだろう。逃げた
ソウルスターリングは揉まれたわけではないが、揉まれるのを嫌ってああいう競馬になった面はある。そもそも厳しくマークされる1番人気馬でもあり、3歳牝馬にとっては思った以上に
厳しい条件が揃っていた。
想像にすぎないが、出走馬中で唯一の牝馬が受けるプレッシャーというのは、ほかにも牝馬がいる場合に比べてかなり大きいのではないか。あと1頭だけでも同じ牝馬がいてくれれば、精神的にだいぶ落ち着くことができるのではないか。実際、
ルメール騎手も
「レース前はテンションが高かった」と述べている。
ソウルスターリングが
天皇賞・秋で巻き返す確率は、
他の牝馬が1頭いるかどうかで大きく変わってくるのではないだろうか。
申し訳ないことに、本来称えるべき勝ち馬を差し置いて、ここまで話を続けてしまった。取ってつけたような感じにはなって恐縮ではあるが、
リアルスティールの切れ味はさすがのものだった。(ほぼ)ワンターンの1800mはベストの条件で、一昨年は
共同通信杯でドゥラメンテを破り、昨年は
ドバイターフを制している。今年は
中山記念で⑧着に敗れ、連覇を目指した
ドバイターフは出走を断念。体調を不安視する声もあったが、得意条件で本調子ならこのぐらい走って不思議のない馬である。
このあとは昨年②着の
天皇賞・秋で国内G1初勝利を狙うのかと思いきや、
BCマイルという選択肢も浮上しているようだ。これで
2戦2連対と好相性の
M・デムーロ騎手には
サトノクラウンの先約があるようで、ジョッキーの関係もあるのだろう。3代母の
ミエスクは87年と88年に
BCマイル連覇を果たしており、遠征を決断すれば血統面からも興味深いチャレンジとなりそうだ。
②着の
サトノアラジンは馬群の外を回らないと末脚が鈍りがちな馬だから、手頃な12頭立てで大外の12番枠を引いたのもよかった。次走の
天皇賞・秋は得意の外枠を引いたとしても、コース自体が
外枠不利の東京芝2000mというのは気になるものの、今回同様に上がり勝負になれば走破圏内だろう。同じことは③着の
グレーターロンドンにもいえる。
気になるのは、昨年の
ダービー馬マカヒキだ。この馬も上がりの脚には自信を持っており、展開は向いたはず。なのに、掲示板にも届かない⑥着に終わった。内枠を引いたためか位置どりが意外と前で、そのぶん脚を溜めきれなかったのかもしれないが、それにしても以前ならもっとスパッと切れていたのではないかという思いは募る。ひと叩きした次走こそ言い訳のきかない一戦となる。すっかり地に落ちた現4歳牡馬世代の評価を取り戻すべく、真価を発揮したいところだ。