役者が違ったとしか言いようがない
文/山本武志(スポーツ報知)、写真/森鷹史
役者が違った。この言葉しか出ない、今年の
天皇賞・秋だった。
キタサンブラックは春に
大阪杯、
天皇賞・春でG1を連覇。特に
天皇賞・春は
3分12秒5という驚異的なレコードで完勝し、
国内最強馬は揺るぎないものになったと誰もが思った。ところが、単勝1.4倍の圧倒的人気を集めた
宝塚記念でまさかの
⑨着。
敗因が特定できない謎の敗戦以来、4ヵ月ぶりとなる実戦の今回は正直、色々な面がレース直前まで
不安に映っていた。最終追い切りが今までに比べると軽すぎないか、今まで負けたことが多い道悪をこなせるのか、パドックでイレ込んでいるように見えるが大丈夫なのか。
そして、極めつきが道中の位置取りだ。ゲート内で突進したため、躓くようなスタート。今まで見たことのない後方集団からのレースになり、しかも各馬が通りたがらない内ラチ沿いを進んでいる。
キタサンブラック危うし―。正直、誰もがそう思っただろう。
しかし、
武豊と
キタサンブラックは一枚も二枚も上をいっていた。各馬が徐々に外へ持ち出そうとする3、4コーナーの勝負どころで、迷わずに内ラチ沿いから一気に位置を押し上げた。前を射程圏にとらえた直線入口で徐々に進路を外へ切り替える。
残り400mで早々と先頭に立ってからは
サトノクラウンが迫ってきたが、ここからは
「抜けそうで抜かせない」いつもの
キタサンブラック。相手が来れば来るほど脚を伸ばし、最後はねじ伏せるようにクビ差で押し切った。
改めて、
キタサンブラックという競走馬について考えてみた。デビュー戦から
スプリングSまで
無傷の3連勝を挙げながら、母の父
サクラバクシンオーという血統面からクラシック戦線では距離を
不安視されてきた。
父の
ブラックタイドも実績のなかった種牡馬で、
清水久厩舎もデビュー当初はG1未勝利だった新進厩舎。
北島三郎さんの所有馬ということでは世間の注目を集めていたが、正直、サラブレッドとしては地味な印象が強い方だと思う。実際、初めて1番人気に支持されたのはデビューから12戦目、4歳秋の
京都大賞典だった。
しかし、G1初勝利は3000mの
菊花賞で、唯一連覇しているG1は3200mの
天皇賞・春。そして、
不安視する声も多く聞かれた今回の着差以上の圧勝劇。我々の勝手な想像をあざ笑うような競走馬生活を送ってきている。
そう考えた時、ふと頭をよぎったのが15年まで現役を続けたゴールドシップだ。いつ走るか分からない
気まぐれキャラには、常に頭を悩まされた。今日の3、4コーナーの内ラチ沿いからの「まくり」を見た時、ゴールドシップにとって初のG1勝利となった
12年皐月賞の走りが重なったのは
記者だけだろうか。
その芦毛の怪物に並ぶG1・6勝目を挙げ、JRAでの総獲得賞金はディープインパクトを抜いて、
史上2位となった。すでに年内での引退が決まり、残すは
ジャパンC、
有馬記念の2戦のみ。この2戦を勝てば、
日本競馬史上最多のJRAのG1・8勝となり、
獲得賞金もテイエムオペラオーを抜いて、史上最多となる。あと2戦は日本競馬史に新たな伝説を刻むための大事な戦い。貴重な走りをしっかりと目に焼き付けたいと思う。
しかし、先週の
菊花賞に続いての
極悪馬場で勝ち時計は2分8秒3。正直、今後の予想につなげるという意味で、展開や馬場の通った場所など参考にしづらい面が多く、レース後の各馬の
ダメージも気になるところ。正直、非常に厄介なレースだ。
ただ、⑤着の
マカヒキは今後も追いかけ続けたい。この2週で道悪では割り引いた方がいいという気持ちを強くした
ディープインパクト産駒で、実際に
マカヒキも道中はノメっていたが、直線入口で絶望的な位置から最後の伸び脚は目を見張った。もともと、この秋は春までとは違い、体調面にまったく
不安のない状態。
毎日王冠は初コンビの
内田騎手と呼吸が合わず、今回は道悪に泣いた。大きな
ダメージが残らず、持ち味の活きる良馬場で走れば、
本来の強い姿は戻ってくると感じた。