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今回の勝利は神がかり的な手綱さばきなしには成し得なかった
文/吉田竜作(大阪スポーツ)、写真/森鷹史


勝つときというのはすべてがうまくいくもの…競馬の世界だけではないだろうが、特にこの世界では言い旧されるくらい言われ続けてきたフレーズだ。そして、今年のマイルCSも、そんな旧来からの例に漏れないレースになった。

「大外枠は気にしていた。いちばん悪いからね」ミルコ・デムーロはナーバスになっていたが、逆にそれが超人的な集中力を呼び起こしたのかもしれない。スタートしてからインにもぐりこませると、「少し気にしていた」というペルシアンナイトを勇気付け、馬群の中を進ませる。3コーナー過ぎからもロスのない最短距離を求めて追走。4コーナーから直線にかけてもインにこだわったコース取り。

「4コーナー手前で前が詰まる形になって。何とか割って出てきてくれと願った」池江調教師はごちゃついた直線入口の攻防を祈るような気持ちで見守っていたようだが、おそらくミルコ冷静さ高い集中力と表した方がいいか―を保っていたのだろう。一度は外へのアタックを試みたが、すぐに切り返して一度は馬場の悪いインを目指す。

ここにはおそらく高い計算があったはずだ。当面のライバル・エアスピネルに乗るのは世界ナンバーワンのライアン・ムーア。そのスタイルは、もはや騎手でなくてもご存知だろう。冷徹かつ、生真面目なイギリス人は王者たるレースをするはず…その意識がミルコにあったに違いない。

それがよく現れたのがラスト1ハロン標識手前の攻防。エアスピネルが進路をこじ開け、ライバルに先んじてスパート。やや早く映った追い出しだが、ムーアには「残せる」という自信があったはずだ。そして、この動きにいち早く反応したのがM.デムーロだった。

エアスピネルがこじ開けたことで生じたスペースを見逃さず、内から斜めに外に張り出して進路を確保。前に向き直して態勢を整えたところはすでにラスト100mもなかったか。それでもあきらめずに馬首を押すと、ペルシアンナイトも懸命に体を、脚を伸ばして加速。漆黒の馬体が栗毛の体を塗りつぶしたところがゴール…そして、わずか20センチだけ前に出ていたのがイタリア人の操る3歳馬だった。

「スタートが上手だし、きょうもうまくレースをしてくれた。手ごたえもよかったし、体が合ってからはよくがんばった。まだ3歳馬だし、これからよくなる」とパートナーを称えたミルコだったが、今回の勝利は彼の手腕と集中力なしには成し得なかっただろう。それほど、“ゾーン”に入った時の手綱さばきは神がかり的。この点だけで言えば、ムーアよりも上かもしれない。平場ではたまのポカも目に付くが。

なにやら因縁めいたものを感じるのは②着馬のエアスピネルか。主戦にして、前走の富士Sで勝利をもたらした武豊が2週前の調教中に落馬。先週の騎乗をキャンセルした際は「ジャパンCのキタサンブラックには乗りたい」という声もきかれた。となると、微妙だったのがエアスピネルの陣営だろう。

「先週の段階で、土曜は騎乗せずに、日曜に鞍数を絞って乗ると、マネジャーから聞いていた」と明かしたのは笹田調教師。しかし、本調子を欠いた上に「直前で乗れなくなった場合、変わりの騎手のレベルが落ちてしまう」と心配するのは、調教師としては当然のこと。そして、その対策として“代案”を立てておくのは調教師の仕事のキモでもあるだろう。それが、世界的名手ならば、なおのことだ。

しかし、結果論からいえば、やはりムーアの追い出しが“早かった”のは明らか。差が差だけに、「1度でも乗っておいてくれれば」と誰もが思うことだろうし、それはおそらく笹田調教師の心中にもあるのではないか。

しかし、そうかといって、やはりこの日の武豊の騎乗を見ていても、引き続きエアスピネルの手綱を取っていたとしても…と思わざるを得ない。そう考えた時、エアスピネルにまとわりつくような運命めいたものを感じずにはいられない。果たして、このG1に限りなく違い善戦マンはいつ殻を破ってくれるのか。そのためには何が必要なのか。前途洋洋のペルシアンナイトの行方と同じくらい、来年のエアスピネルが気になるところだ。

ただ、長らく“核”を欠いたマイル戦線にあって、この2頭は待望の信頼に足る存在なのは間違いない。2頭がさらに切磋琢磨し、日本を飛び出すような活躍をしてくれることに期待したい。