このジャパンCが今年の極私的ベストレースとなりそう
文/山本武志(スポーツ報知)、写真/川井博
1年に2000レース以上を予想しているが、毎年のように
極私的ベストレースが自然と生まれてくる。
例えば15年の
オークス。当時は雑誌の方でも書かせてもらったが、
桜花賞不出走組だったミッキークイーンに関して、デビュー前から
浜中Jが惚れ込んでいることを何度も聞き、迷いのない本命を打てた。取材と予想がリンクして、普段から親交のある方々と喜びを分かち合えるというのは幸せだ。
前振りが長くなったが、この
ジャパンCが
今年の極私的ベストレースとなりそうだ。結果論じゃないが、◎
シュヴァルグランにはかなり自信があった。
昨秋は夏に疲れが抜けず、本来は
京都大賞典からのはずが、
アルゼンチン共和国杯からの始動を余儀なくされた。このレースに中2週で迎えた上、
キタサンブラックが後続をちぎる前残りの競馬で
痛恨の大外枠。厳しい条件が次々と重なる中、③着に入った走りには正直、驚かされた。
あれから1年。勝ち星こそなかったが、
着実な進化が取材するたびに伝わってきた。昨年まで判で押したように
「動かない」と書いてきた調教も今は動く。坂路でラスト1ハロン13秒台しか出せなかった馬が、今は楽な手応えで12秒台が出る。
今年は夏場に疲れも出ずに、
京都大賞典から青写真通りのローテで適性の高い舞台へ向かえる。昨年の大外枠から一転しての最内枠。これでもかと言わんばかりに
条件が好転していた。
唯一、未知数だった
ボウマンJも思い描いていた通りの手綱さばきを見せてくれた。
友道調教師が
「(今年の)天皇賞・春のような競馬が理想かな」と話していたように、道中は好位から
キタサンブラックをマークするような理想的な位置での追走だった。
直線ではうまく
キタサンブラックの外へ馬体を持ち出した。追い比べに持ち込めば負けないと思ってはいたが、最後はゴールまで
「ボウマン!」と叫び続けるのみ。喉は痛かったが、何とも言えない爽快感でいっぱいだった。
いい加減、自慢話はここまでにする。ここからは少し冷静に分析しよう。昨年に続く連覇を狙った今回の主役、
キタサンブラックは③着だった。この着順をどう見るかだが、個人的にはまったく悲観する必要はないと思う。
前半1000mは最初の1ハロン以外、すべて11秒台後半から12秒台前半のラップを刻み、昨年より1秒以上速い60秒2。実際、
キタサンブラックと好位でジッと脚をためていた
シュヴァルグラン以外、4コーナーでは中団から後方にいた馬が上位を占めている。その中で④着には4馬身という決定的な差。十分に
「強さ」は見せている。
今回は2分8秒3という勝ち時計が示す通り、極悪馬場だった
天皇賞・秋からの転戦組が半分以上の9頭。そのダメージを何度も各陣営に取材したが、
「まともに走ってないから、なかった」という回答がほとんどだった。
しかし、
キタサンブラックは力を出し切って、激走している。実際に疲れを考慮して、中間は今までと違い、週末にCWコースで時計を出すこともなかった。この馬にしては「ソフト調整」と言っていいだろう。しかし、終わってみれば
天皇賞組で最先着の③着。改めて、
現役最強馬の力を示したと言っていいのではないか。
当然、ラストランとなる
有馬記念にはメイチの仕上げが施されるだろうし、直線の短いコースに替わるのも歓迎だろう。昨年の②着も非常に強い内容だった。ただ、過去10年の
有馬記念の勝ち馬で
ジャパンCからの転戦組は意外に10年ヴィクトワールピサ、14年ジェンティルドンナの2頭しかいない。
特に今回は
天皇賞・秋とは別路線で、フレッシュさに勝る
シュヴァルグラン、
レイデオロが①②着を占めた。暮れのグランプリでは、今まで以上に「余力」という面がピックアップされそうな気がする。そうなると、多くの方は
アルゼンチン共和国杯を快勝した3歳馬スワーヴリチャードを思い浮かべるだろう。
しかし、あんな前振りを書いたからではないが、
エリザベス女王杯以来となるミッキークイーンに注目している。展開がまったく不向きながら、大外から1頭だけ伸びてきた脚は強烈。能力に陰りなし、ということは確かに伝わった。
もちろん、今回の出走組の状態を見極めた上、別路線組の取材も進めるつもり。最後の最後に
極私的ベストレースがアップデートされるように、最後まで頭を悩ませ続けていきたいと思う。