種牡馬としての潜在能力の高さを証明、来春のクラシック戦線もにぎわす!?
文/山本武志(スポーツ報知)、写真/川井博
約3年半にわたる
オルフェーヴルの現役時代をずっと栗東で取材してきたが、皆さんもご存じの通りの激しい気性をはじめ、個人的には最後までつかみどころのない馬だった。
例えば4歳春。
阪神大賞典で外へ大きく逸走しながらも半馬身差の②着まで差を詰めた走りに、圧勝しか思い描いてなかった次走の
天皇賞・春はまさかの
⑪着惨敗。しかし、続く
宝塚記念は本調子を欠いていたように見えたが、完勝された。まるで同じ父に
ステイゴールドを持つゴールドシップのように、何度ぼう然とさせられたことだろう。
その
オルフェーヴルは種牡馬としても、我々を悩ませてくれている。初年度産駒となる現2歳世代は勝ち上がりがわずかに7頭。同じ新種牡馬の
ロードカナロアの27頭に比べると、その数字は物足りない。ただ、重賞ウィナー2頭輩出は
ディープインパクト、
キンシャサノキセキと並ぶトップタイ。
「オルフェ産駒って走るの?」と聞かれると、正直、現状では返事に困ってしまう。
その重賞ウィナー2頭で、父と同じ栗毛の
ロックディスタウンと
ラッキーライラックが人気を分け合った2歳女王決定戦。前半800mが47秒7と非常に緩やかな流れの中、好位の外めを追走していた
ロックディスタウンは直線で伸びない。馬場の真ん中から
リリーノーブルがかわしにかかるが、さらに外から襲いかかったのが
ラッキーライラックだった。
石橋Jの左ステッキで徐々に加速度は増し、トップスピードに入ったラスト1ハロンで
リリーノーブルをかわすと、最後は4分の3馬身差をつける完勝だった。
ラッキーライラックは母に米G1馬を持ち、同じ
松永幹厩舎に所属した半姉のラルク(
父ディープインパクト)はセレクト1歳セールで
1億4500万円の高値がついたほどの血統馬。デビュー前から
松永幹調教師は
高い素質を感じ取っていた。初めて見た1歳時の印象を、こう話したことがある。
「姉のラルクよりも馬格のあるいい馬だったし、他に色々と見ていたオルフェーヴル産駒の中でもいい馬だなと思っていたんです」。そのファーストインプレッションは色あせぬまま、一気に
2歳女王までたどり着いた。
話を
オルフェーヴル産駒という点に戻そう。今年は早い段階から
ロードカナロアと2頭で、新種牡馬の目玉と言われてきた。実際、
ロードカナロアが250頭、
オルフェーヴルが244頭と初年度としては破格の繁殖牝馬と種付けを行っている。
この2頭は適性がはっきりと分かれている。
ロードカナロア産駒は極上のスピードが活きる短距離戦がメインとなるのに対し、クラシック牡馬三冠馬となった
オルフェーヴル産駒は中長距離戦が主戦場となる。実際に
松永幹調教師は
ラッキーライラックについて、
「本当はマイルというより、距離を延ばした方がいいタイプだと思う」と先週の栗東トレセンで話していた。
最近は
ホープフルSのG1格上げなど早い時期にクラシックを見据えたレースを増やしたとはいえ、2歳戦はやはり短距離志向の強い番組構成。
オルフェーヴル産駒が力をフルに発揮できる舞台の選択肢は少ない。
さらに、現役時代を振り返ってみると、三冠馬へ向けて
「覚醒」したのは3歳春の
スプリングSから。2歳暮れは
低迷を極め、もがいている時期だった。それだけに、この早い段階でG1勝ち馬を輩出したという実績は
潜在能力の高さを何より物語るもの。来春のクラシック戦線をにぎわす種牡馬となりそうだ。
さて、掲示板に入った5頭を見て、ひとつ気づいたことがある。②着の
リリーノーブルを除き、他の4頭はすべて前走で東京コースを使っている馬なのだ。阪神外回りでの施行に替わり、地力勝負の色が強くなった06年以降、東京コースからの転戦組が比較的、良績を残してきたが、ここ3年は特に顕著。
③着以内に入った9頭中、実に8頭を占めていた。そして、今年もこの結果。今後もこのレースを予想する上で、覚えておきたい傾向だと思う。