父イスラボニータはどんな産駒を送り出すのか、楽しみに待ちたい
文/浅田知広、写真/森鷹史
みなさんは
「古馬G2が年間3レース行われている距離」と言われて、どの距離を思い出すだろうか。
阪神Cでそんな話をするということは当然芝1400mも含まれ、ほかに1800m、2200m、そして2500m。2000m以下ではG1があるところではなく、G1が行われない距離でG2が厚めになっている。
この芝1400mは、
京王杯スプリングCと
スワンSはマイルG1へ向けたステップレースだが、こちら
阪神CはG1とは関係なくここに単独でポツンと存在。他の2レースとは違う定量戦ということからも、
1400m巧者にとってはひとつ目標になる一戦だ。
そんな位置づけとは関係なく、年によってはマイラーとスプリンターの争いになることもあるが、今年の人気上位勢は1400mが良さそうなタイプが揃った。まず1番人気の
モズアスコットは、徐々に距離を縮めてここ2戦は1400mで2連勝。続く2番人気・引退レースの
イスラボニータは、昨年のこのレース②着以来2度目の1400m戦。そもそも2000mの
皐月賞馬だが、折り合い面や自身のスピードを見れば、マイルよりもさらに向いている可能性も十分にある。
そして3番人気の
サングレーザーも、1400~1500mで前々走まで4連勝。前走の
マイルCS③着は健闘と言える一方で、ひと押しを欠いていた。さらに4番人気の
桜花賞馬レーヌミノルも、マイルより1400mの方が良い可能性もあり、レース時点でここまで「1400mっぽい」馬が上位人気を占めた
阪神Cも珍しい。
そんなレースで好スタートからハナを切ったのは「1200m寄りの1400mっぽい」
アポロノシンザンで、前半の600m通過は33秒6。33秒台突入はキンシャサノキセキが最初に勝った09年以来の3回目と、例年よりは明らかに速い流れだ。人気どころは
イスラボニータと
レーヌミノルが中団で、その後ろに
モズアスコット、後方から
サングレーザー。ペースを考えれば、それぞれ悪くない位置取りに見受けられた。
しかしそんな流れでも、3コーナーで
モズアスコットの
C.デムーロ騎手が手を動かし、かなり早めの進出を開始。
イスラボニータと並ぶ位置を取りに行ったかにも見えたが、
イスラボニータが内で包まれ加減なのをチャンスと見たのか、そのままさらに前を追って行ったのだ。
その後ろからはワンテンポ遅れて
サングレーザーも動いたが、こちらは
イスラボニータの位置まで上がる前に4コーナー。大外の距離損もあって、結局、動いたものの位置取りは上がらず、という形になってしまった。
そして直線。逃げる
アポロノシンザンをまず捕らえにかかったのは、15年の②着馬
ダンスディレクター。すぐその外に
モズアスコットが迫り、その間に入った
イスラボニータは少々苦しい態勢となった。
しかし、残り200mを切ると、早めの動きが祟ったか、
モズアスコットは失速気味。かわって外から
サングレーザーが追い上げたものの、前の
ダンスディレクター、
イスラボニータにはちょっと届かない脚色だった。
残り100mからは、粘る
ダンスディレクターと追う
イスラボニータの一騎打ち。ただ、
イスラボニータ・
ルメール騎手のムチの入れ方、そして追い方には余裕あり。そんな見た目通りに、ゴール前できっちり
イスラボニータがわずかに前へ出て、昨年僅差負けの雪辱。一方の
ダンスディレクターは、15年に続いてのハナ差②着と涙をのんだ一戦となった。
勝ち時計1分19秒5は、94年に代替開催の
スワンSでサクラバクシンオーが記録した、1分19秒9を0秒4更新する
コースレコード。日本で初めて1分20秒の壁が破られてから、なんと23年。京都ではすでに1分19秒0(
15年安土城S・ウリウリ)まで記録されているが、阪神1400mでは久々の
レコード更新となった。
そのタイムを記録した
イスラボニータは2歳時の13年にも、
東京スポーツ杯2歳Sで1分45秒9の
東京芝1800m2歳レコードをマークしている。実は当時も速攻インプレを担当しており、なにを書いたかと引っ張り出せば、
「創設当初の代表的な優勝馬はキングヘイローやアドマイヤマックス、アドマイヤコジーン(後のスプリントG1連対馬)」。そして
「今後へ向けての課題は折り合い」と。
実際は
皐月賞を制し、
ダービーでも②着だから、こちらの予想を覆し、とりあえず距離は持った。ただ、その後の戦績や今回の結果を見ると、
東京スポーツ杯2歳Sを制した先輩のように、1200mでの走りも一度くらいは見てみたかった気もしてくる。
今後は種牡馬として名スプリンターを送り出すのか、それとも「1400mっぽい」馬が出るのか、あるいは父子クラシック制覇を達成するのか。
父フジキセキ、
母の父コジーンという血統背景からはスピードタイプが多く出る可能性もあるが、果たしてどんな産駒が生まれてくるのか、楽しみに待ちたい。