引退レースで後続を完封して快勝、種牡馬としても前途洋々
文/後藤正俊(ターフライター)、写真/川井博
世相を表す今年の漢字に
「北」が選ばれた時点で、
「結果はその年を象徴する」と言われている
有馬記念は、
北島三郎氏がオーナーを務める
キタサンブラックの勝利が決まっていたのかもしれない。12月24日のクリスマス・イブ開催は2006年以来。その時は引退レースのディープインパクトが圧勝している。そして今回の
キタサンブラックもここが引退レース。鞍上の
武豊騎手はオグリキャップ、ディープインパクトの引退レースとなった
有馬記念をともに勝利している。舞台はすべて整っていた。
さらに、ライバルになるはずだったサトノダイヤモンド、レイデオロは早々と回避を決めていた。勝利がより確信に近づいたのが、枠順抽選で1枠2番を引き当てた時。内枠が断然有利と言われている
有馬記念、しかもゲートに多少の
不安がある
キタサンブラックにとって絶好条件となる「後入れの偶数番」。
北島オーナーは
キタサンブラックのことをいつも
「神様からの贈り物」と語っていたが、これだけ神がかっていると、単勝支持率42%、単勝1.9倍という圧倒的な人気も当然のことのように思えた。
レースもそんな
キタサンブラックらしい神がかった展開になった。ゲート内ではややうるさくしていたものの、突進してゲートにぶつかった
天皇賞・秋とは違って、ベストのタイミングで発馬を決めた。外から先手を主張する馬もおらず楽に先頭に立つと、2~4番手につけた
シャケトラ、
カレンミロティック、
クイーンズリングは実力差があるため
キタサンプラックを突っつくこともない。
この3頭が広がって壁を作ったため、打倒
キタサンに燃える
シュヴァルグラン、
スワーヴリチャード、
サトノクラウンらはその外から上がっていくことはできず、おとなしく中団待機をせざるを得なくなった。
キタサンブラックはまったくのマイペースで1000m通過が61秒5のスローペース。「一番強い馬が楽に逃げているのに、なぜ後続の有力馬は競りかけないのか」と疑問に思う
ファンがいるかもしれないが、それをさせないのも
武豊騎手の上手さなのだ。
これだけのスローペースで楽に逃げているのだから、できるだけ最後までスパートを遅らせるのが逃げ馬の常套手段だが、
武豊騎手は残り1200mの地点から自らピッチを上げ始めた。ラスト1000mは59秒5。スローのままだと有力馬に外からまくられる可能性があるし、直線の瞬発力勝負になると
シュヴァルグラン、
サトノクラウンらの方が得意にしている。ペースを上げてまくりを封じ、最後は
キタサンブラックがもっとも得意とする持久力勝負に持ち込んだ。
今年、日本を席巻した外国人騎手たちの心理も読み切って、
キタサンブラックを
栄光のゴールへと導いた。②着に1馬身半差をつける快勝だったが、この差はあと1ハロン走っても詰まることのないように思えた。
キタサンブラックの後半のペースアップで後続馬はみんな脚を失くして、手も足も出なかった。
引退レースでディープインパクトらと並び歴代最多タイとなる
JRAのG1・7勝目を挙げ、総収得賞金でもテイエムオペラオーを抜いて歴代最高記録を塗り替えた
キタサンブラックは、来春から
社台スタリオンステーションで種牡馬入りすることが決まっている。シンジケートの詳細や初年度種付け料は今後決定するが、オルフェーヴルが初年度600万円だったことを考えると、それと同程度の価格が設定されることになるだろう。
「血統は目立たない」と常に言われていたが、
父ブラックタイドはディープインパクトの全兄で、デビュー前の評判は弟よりもはるかに高かった。3歳時の屈腱炎がなければ、まったく違う現役成績になっていたはずだ。母の父は
サクラバクシンオーで、その血統には
ノーザンテースト、
テスコボーイという日本競馬を支え続けた名種牡馬の血が伝えられている。
そして何よりも540kgの雄大な馬体は生産者から高い人気を集めることが確実だろうし、それだけの馬体ながら脚元に
不安がまったくなかったことも、日本競馬の改良に大きな役割を果たしていくに違いない。種牡馬
キタサンブラックも前途洋々だ。
3頭による激しい②着争いは、
M.デムーロ騎手の騎乗停止、
ルメール騎手の戒告処分が絡む残念な結果となったが、
キタサンブラックと同様にここが引退レースとなった8番人気
クイーンズリングが、
シュヴァルグラン、
スワーヴリチャードをハナ、クビ差抑えた。
不利な展開でも②着争いまで食い込んだ
シュヴァルグラン、
スワーヴリチャードは、レイデオロらとともに来年の主役を担うことが間違いないだろう。
キタサンブラックの
ファンでなくても、強い馬が強いレースを見せたという意味で、歴代でも有数の見応えのある
有馬記念だったのではないだろうか。