ダンビュライトが【1】のパターンで重賞初勝利
文/出川塁、写真/稲葉訓也
過去の
AJCCの結果を眺めると、勝ち馬は次の4つのパターンにおおよそ分けられるように思う。
【1】前年のクラシックにも参戦した4歳馬が古馬初戦を飾って勝利。
【2】前年の秋から素質を開花させつつあった5歳馬が勝利。
【3】中山巧者が適性を発揮して勝利。
【4】長らく勝利から見放されていた古豪が復活して勝利。例外の結果に終わる年もあるが、勝ち馬の多くは以上の4パターンのいずれかに分類することができる。
1番人気を集めた
ミッキースワローは、G1初出走となった昨年の
菊花賞でも⑥着に健闘。
セントライト記念勝ちを含む
2戦2勝という中山芝2200m巧者でもあり、勝てば
【1】と
【3】に該当する馬だった。
臨戦過程が嫌われたのか3番人気にとどまったものの、実績では断然の存在だったのが
ゴールドアクター。
15年有馬記念の勝ち馬で、中山芝2200mに限っても16年
オールカマー勝ちを含む
3戦2勝。中山適性は説明不要。また、その
16年オールカマーを最後に勝ち鞍から遠ざかっていたので、勝てば
【3】と
【4】のパターンに当てはまることになる。
しかし、勝ったのはこの2頭のどちらでもなかった。昨年のクラシックを皆勤し、
皐月賞③着、
ダービー⑥着、
菊花賞⑤着と善戦し、両馬に割って入る2番人気に支持されていた
ダンビュライトが、
【1】のパターンで重賞初勝利を飾ることになったのだ。
前走、準オープンの
サンタクロースSを4角先頭で押し切り、
新馬戦以来となる2勝目を挙げて再度のオープン入りを果たした同馬は、ここでも積極的なレースを展開する。スタートはせいぜい五分といったところだったが、
ミルコ・デムーロ騎手が仕掛けるでもないのにハナを切る勢い。並んで進む
ショウナンバッハも逃げたくはないようで、鞍上の
戸崎圭太騎手は手綱を絞って下がっていく。1コーナーの手前でようやく、逃げると目されていた
マイネルミラノが外からかわしてハナに立ち、枠なりに出てきた
トミケンスラーヴァの外につけた。
その後、2コーナーを回ると
マイネルミラノに接近。といっても仕掛けているわけではなく、無理のない範囲で楽な逃げを許さないようプレッシャーをかけていく。
マイネルミラノはこれを嫌って再び距離をとるのだが、ここで脚を使わされたことが直線で響いたのは間違いないだろう。それでも③着に粘ったのだから、いかに前半で楽をしていたのかがわかる。
その一方で、
ダンビュライトと3番手以下の差はもっと広がっていた。1番人気の
ミッキースワローは道中9番手から3コーナーで一気に3番手まで押し上げているが、やはりここで脚を使わされる。4コーナーのアクションを見れば差は歴然で、追いかける側の
ミッキースワローの鞍上・
横山典弘騎手が激しく手綱を動かしているのに、先行するほうが持ったままでは、この時点で勝負の趨勢は決していた。
結局、2コーナーでわずかに動いたことを除けば終始マイペースで無駄な脚を使わず、それでいて2番手という絶好のポジションを手に入れた
ダンビュライトと
M・デムーロ騎手の作戦勝ち。最後に難なく
マイネルミラノをかわし、
ミッキースワローを寄せつけることなく、重賞勝利を飾った。
先週の
日経新春杯に続いて見事な手綱さばきを見せた
M・デムーロ騎手だが、
ダンビュライトの鞍上の変遷を見ると今の競馬の縮図を垣間見ることができるようでもある。
松若風馬騎手でデビュー戦を圧勝して能力の一端を見せると、次走ですかさず
クリストフ・ルメール騎手にスイッチ。しかし、レイデオロという別のお手馬がいた
ルメール騎手が手綱を取ったのはトライアルの
弥生賞までで、
皐月賞から
菊花賞までのクラシック路線では
武豊騎手がパートナーを務めた。
有馬記念と重なった前走は、
新馬戦以来の騎乗となった
松若騎手で勝利。そして、いざ重賞初勝利を目指した
AJCCで鞍上に収まったのは、クラシックをともに戦った
武豊騎手でも、
2戦2勝の
松若騎手でもなく、テン乗りの
M・デムーロ騎手なのだった。
それにしても心配なのが
ゴールドアクターだ。昨年の
宝塚記念で②着に入ったあとは秋のG1シリーズへの参戦を見送り、年明けのここまで待機したにもかかわらず、見せ場すら作れず最下位の
⑪着に敗れてしまった。衰えと無縁ではいられない明け7歳馬。得意コースだったことを考えても、この結果は重く受け止めなくてはならないだろうが、名優の復活はあるだろうか。