リスグラシューの戴冠の目は流れひとつ!?
文/出川塁、写真/森鷹史
昨年の
東京新聞杯は忘れがたいレースだ。600m通過が37秒2、1000m通過も62秒2という、芝のマイル重賞としては稀に見るスローペースとなったからだ。今年はどんな流れになるかと注目していたところ、グリーンチャンネルの中継に表示された600m通過は35秒4。1000m通過は目視で1分ちょうどぐらいだった。
その後の発表によると1000m通過は60秒0。昨年よりはだいぶ速いが、それでもマイル重賞としてはスローの範疇といえる。とはいえ、これでも過去3年よりは速いのだから、いまや
東京新聞杯は
60秒台が当たり前のレースと認識すべきなのかもしれない。
中距離戦のような流れとなったのだから、中距離オープン実績を持つ3頭が馬券圏内を占めたのは妥当な結果だ。上から順に、2000mの
秋華賞で②着の
リスグラシュー、1800mの
巴賞で①着の
サトノアレス、2000mの
プリンシパルSで①着の
ダイワキャグニーという決着となった。
以前から
「東京マイルは中距離実績を持つ馬が有利」とはいわれてきた。しかし、これは
「タフな東京マイルは中距離ぐらいのスタミナが求められる」という意味であり、1000m通過が60秒台の
東京新聞杯には当てはまらない。ゆったりとした流れになり、中距離馬の鋭い末脚が活きやすいマイル重賞。結果として中距離馬が勝つのは同じかもしれないが、実態はまったくの別物だ。
そんな今年の
東京新聞杯は、
ダノンプラチナの出遅れで幕を開けた。ハナを切ったのは
トウショウピスト。1200mや1400mで勝ち上がってきた馬なので、ここではスピードが違う。こちらも1400mで2勝を挙げている
ディバインコードが続き、外から
マイネルアウラートも押し寄せてくる。
さらには、1番人気の
グレーターロンドンも意外な先行策を見せる。大外16番枠から先団に取りつき、3~4コーナーでは2番手にポジションを上げる。引っ掛かっているわけではなく、折り合いはついているようだ。追い込み届かなかった前走を踏まえてのことだろう、積極的な競馬を展開した。
落ち着いた流れになったのは前述の通りで、馬群は一団のまま直線へ。横一線の追い比べとなり、間を割ってスパッと抜けてきたのが
リスグラシューだった。残り300mあたりで先頭に立つと、内ラチ沿いから追い込んできた
サトノアレス、外から追いすがった
ダイワキャグニーらを押さえて先頭ゴール。2歳時の
アルテミスS以来となる
重賞2勝目を飾った。
鞍上は
武豊騎手。前走の
エリザベス女王杯はテン乗りの
福永騎手で、出遅れもあってデビュー以来はじめて掲示板を外す⑧着に敗れてしまったが、この馬のことはやはり
武豊騎手がいちばんよく知っている。同コースの
アルテミスSでも、枠やコース取りこそ違うものの、同じように中団から差し切っている。持ち味を存分に引き出して、久しぶりの重賞勝利に導いた。
桜花賞以来のマイル戦を快勝した
リスグラシュー。当然、この春の目標は
ヴィクトリアマイルでのG1初勝利となるはずだ。ただし、このレースはペースが速くなりがちで、濁流を楽に追走できるスプリンター血統が強い傾向にある。ストレイトガールの連覇など
フジキセキが種牡馬別で最多の4勝を挙げているのが典型で、血統だけを見れば短距離馬のアパパネが1歳上のブエナビスタを撃破した2011年も印象深い。
血統表をどこからどう見ても中距離馬の
リスグラシューは、これまでの傾向としては合っているとは言い難い。もっとも、
アドマイヤリードが制した昨年は1000m通過が60秒1で、このペースになればチャンスが一気に拡大する。短距離戦やマイル戦のスロー化は
東京新聞杯に限ったことではなく、
流れひとつで戴冠の目は十分にある。
一方、先行する競馬に挑んだ1番人気の
グレーターロンドンは、直線の入り口では手応えを残していたように見えたものの、まったく脚を伸ばせず⑨着に沈んだ。ペースが速かろうと遅かろうと、後方でじっくり脚を溜めないと力を発揮できないタイプなのだろう。難病の蹄葉炎を克服した、誰もが応援したくなる馬。差し届かない
リスクを背負いながらも後方一気に懸けて、重賞タイトルの獲得を目指してほしいところだ。