2番手にいても、主導権を握っていたのは藤岡佑騎手だった
文/編集部(T)、写真/佐々木光
昨年の
日経賞は
ゴールドアクター、
ディーマジェスティという2頭のG1馬をはじめ、7頭の重賞勝ち馬が出走していたが、それらは連対できず、重賞未勝利だった
シャケトラ、
ミライヘノツバサがワンツーを決めた。
今年は出走15頭のうち、重賞勝ち馬は3頭(
ゼーヴィント、
サクラアンプルール、
キセキ)で、G1馬の出走が1頭のみ。それが昨年の
菊花賞馬
キセキだから、さぞ人気を集めるだろうと思っていたら、1番人気には推されたもののその
オッズは3.3倍。2番人気
トーセンバジルは重賞勝ち実績がないにもかかわらず
3.5倍だから、ほとんど差はないに等しい。そして、3番人気には5.4倍で同じく重賞未勝利の
ガンコが続いた。
キセキはそれまでの主戦だった
M.デムーロ騎手ではなく、
ルメール騎手が騎乗。一方、その
M.デムーロ騎手が
トーセンバジルに騎乗することになったこともその理由のひとつかもしれない。
正直なところ、
「この二人の少なくともどちらかは連に絡むだろうなあ」などと呑気に考えていたが、同時に
「何かが起こりそう」な雰囲気をなんとなく感じてもいた。
結果、
「何かが起こりそう」といったどころの話ではない、いろいろと考えることの多い
日経賞となった。
序盤は
ガンコがハナに立ち、2番手に
ロードヴァンドール。どちらが前に行くかはともかく、これは予想通りの展開。
トーセンバジルは中団、
キセキは後方に控えた。
“異変”が起こったのは1コーナーに入るところで、馬群の外に持ち出した
キセキが一気に進出していく。特に引っかかった感じでもなかったので、これは
ルメール騎手が
レイデオロの
ダービーで見せた早め進出のパターンかと思っていたら、先頭を行く
ガンコまで交わしてしまったからさすがに驚いた。
そこで
ガンコの鞍上・
藤岡佑騎手がどうするかと見ていたら、追いかけるでもなくそのまま2番手に控える。正直なところ、
「また日本人騎手がルメール騎手にやられるのか……」と一瞬頭をよぎったが、
これがファインプレーだったことが結果から分かる。
レース後、
藤岡佑騎手が述べたところによると、
「あのまま(キセキが)先頭でペースを落とすようだったら自分も動いていこうと思ったのですが、少しオーバーペース気味に行ったのであまり深追いしなかった」とのことだった。
一方、
「スローペースだったので、後ろからでは厳しいと思ってポジションを上げた」とは
ルメール騎手の弁。
レイデオロの時は前に行った馬が軒並み人気薄で、実質ペースを握ったのは
ルメール騎手だったわけだが、今回前に行った
ガンコは3番人気で力のある馬。結局のところ、
今回主導権を握っていたのは、終始藤岡佑騎手だったのだろう。
藤岡佑騎手の読み通り、勝負所で
キセキが失速気味になると、再度先頭を奪い返した
ガンコが後続を突き放す。前がマイペースで運んだ分、こうなると後続は厳しい。
チェスナットコート、
サクラアンプルールが最後に詰めてきたが、ガンコが最後まで譲らず先頭でゴールを切った。
それにしても、今年の
藤岡佑騎手は乗れている。昨年は36勝だったが、今年はすでに22勝を挙げていて、重賞も
京都記念(
クリンチャー)に続いて2勝目。今回もそうだが、よく周りやペースが見えていて、今は人気にかかわらず侮れない印象がある。
レイデオロのようなレース内容はセンセーショナルだが、自分でペースを作り、後続に何もさせなかった今回の
ガンコのレースぶりは、一見地味なようでも同じくらいの価値があると思うのだが、どうだろうか。
そんな
藤岡佑騎手の手綱捌きに応えた
ガンコも見事で、これで
芝に戻って①③①①着とし、一気に重賞初制覇を決めた。ダートでは1000万クラスで完全に頭打ちで、一時は障害入りも検討されたというが、5歳にして一気にトップホースの一角に食い込んできた。
最近はキャラクターも少し似ている印象もあるこのコンビ、今後は
天皇賞・春を目指すということだが、人馬ともに初G1制覇をそこで成し遂げるか、期待したい。