持続力勝負となってマニアも驚きの好時計勝ち
文/出川塁、写真/佐々木光
メンバー唯一のG1馬
クラリティスカイが単勝400倍を超える最低人気に甘んじて⑬着。昨年の勝ち馬
ロジチャリスも12番人気⑫着。今年の
ダービー卿CTは盛者必衰というか諸行無常というか、
競馬の移ろいの早さを感じるような結果ではあった。
1、2番人気に支持されたのは重賞未勝利の
グレーターロンドンと
レッドアンシェル。3番人気の
マルターズアポジーこそ重賞3勝を挙げているが、4番人気の
ヒーズインラブと5番人気の
テオドールは重賞初出走と、目新しい顔ぶれが上位に支持された一戦。内から好スタートを切ったのは
キャンベルジュニアだったが、予想通りに外から
マルターズアポジーがハナを叩いていく。
中継画面に表示された前半600m通過は35秒0。この時点では
「またスローペースのマイル重賞か」と思ったのだが、これは早計だった。レース後にラップが発表されると、
マルターズアポジーはここからペースを上げ、向正面の600m地点から4コーナー途中の1200m地点にかけて
11秒2-11秒2-11秒3の速いラップが刻まれていた。今年の
ダービー卿CTはレースの入りこそ速くはなかったものの、残り1000mで速いラップが刻まれる
持続力勝負という厳しい流れとなった。
直線を向き、レースを牽引した
マルターズアポジーは直線半ばまでよく粘ったものの、残り200mを過ぎて失速。
キャンベルジュニアが先頭に立ったところに、馬群を割ってきた
ヒーズインラブが追いすがって叩き合いとなり、最後は後者が半馬身突き放してゴール。さらに3/4馬身遅れて、
ストーミーシーが外から③着に突っ込んだ。
一方、1番人気の
グレーターロンドンは先行して不発に終わった前走を受けたのだろう、今回は後方待機で脚を溜めることに専念したものの⑤着まで。道中はインコースを進んだ2番人気の
レッドアンシェルも早めに手応えが悪くなり、直線は流れ込むだけの⑦着に終わった。
終わってみれば、道中10番手以降の通過順を記録した馬が掲示板に載った5頭中4頭を占める差し競馬。この展開を思えば、先行して②着の
キャンベルジュニアは着順以上に頑張ったといえそうだ。
また、掲示板に載った5頭の血統表を見ると面白いことがわかる。注目すべきは
サンデーサイレンスの血の有無と、持っている場合はその位置だ。①着の
ヒーズインラブ、②着の
キャンベルジュニアは
サンデーの血を一滴も持たない。次いで、③着の
ストーミーシー、④着の
テオドールは
サンデーが3代目の位置に入り、⑤着の
グレーターロンドンは
サンデーを2代目に持つことになる。つまり、
サンデーサイレンスの血が薄い馬ほど走りやすかったことになる。
前述した通り、今年の
ダービー卿CTは残り1000mの
持続力勝負。これは、
サンデーの血が得意とする「溜めてドン」とは真逆の展開といえる。末脚を溜めに溜めて最後に爆発させる
グレーターロンドンは、その典型といってもいいだろう。一見この馬には向きそうな差しの競馬にはなったものの、このレースは残り1000mで速いラップが刻まれて脚が溜まる流れではなかった。
偉大な先人の比喩を借りるならば、カミソリではなくナタの切れ味が求められるレースだった。
欧州遠征などで持続力が求められるレースになると、「切れすぎる」日本馬が苦戦する展開になることがままあるが、このレースはまさにそのミニチュア版。こういうレースになると
サンデーの血は長所を活かしづらい。
とはいえ、
ハービンジャー産駒が
サンデーの力を借りずに1分32秒2のタイムでマイル重賞を勝つスピードを備えることができるとは。ハービンジャーマニアを自認する
私もさすがに驚いた。とにかくタフで日本馬にとっての
鬼門となっているアスコットの
キングジョージで、11馬身差のレコード勝ちを飾った持続力はやっぱり伊達じゃない。
ヒーズインラブとは、
ハービンジャーに首ったけな
私を表す馬名だったのかとすら思ったが、もちろんそんなわけはない。