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恐るべき名牝候補、父同様に世界を股にかけた活躍を期待したい
文/吉田竜作(大阪スポーツ)、写真/森鷹史


「パンがなければケーキを食べればいいのに」

かのマリーアントワネットが語ったとされる言葉だ。いろいろな意味の取りようあるだろうが、使い勝手のいいフレーズだ。今回の桜花賞で言えば、「メンバー中、芝1600mの持ち時計1分33秒4が最高なら、それ以上で走ればいいじゃない」というところか。

しかし、それを成し遂げるのは非常に難しい条件が揃った。アーモンドアイはスタートこそ出たものの、そのままスピードに乗ることができずに後方2番手から進むことに。圧倒的1番人気で、持ち時計もナンバーワンの2歳女王ラッキーライラックはハナに立とうかというスタート。しかも、スムーズに先頭を明け渡し、レースをコントロールしやすい3番手に収まった。

前半3ハロン34秒5は速いとも遅いともつかないペース。それならば、ポジションは前の方が有利となるはずだった。実際にレース自体も淡々と進み、ラッキーライラックも余裕を持って直線へと向き、前の馬を交わしにかかった。これがごく例年並みならば「万全の態勢」と言って差し支えないはずだ。

実際にラッキーライラック=石橋も細心の注意を払いつつ、2歳女王としての自信を胸に早め先頭へと躍り出たはずだ。ただ、計算違いがひとつあった。ごく単純にラッキーライラック以上に速い時計で走れてしまう馬がいた、ということだった。

上がり3ハロンは前半のそれとコンマ1しか違わないペース。こうした流れを後方…それも最後方に近いポジションから追い込むのは難しい。かつて、このような平均ペースを同じようなポジションから差し切った馬がいた。それが09年に桜花賞を勝ち、後に名牝とうたわれたブエナビスタだ。この時は前後半ともに3ハロン34秒9。これを16番手から差し切っていた。今回のアーモンドアイはこのケースに酷似している。

それはペースや位置取りだけではない。そのすべてを飲み込んでしまうかのような圧倒的な末脚までそっくりだった。奇しくもラッキーライラックを管理する松永幹調教師は、ブエナビスタの②着だったレッドディザイアも管理していた。9年後によもや同じ桜の舞台で規格外の怪物に出会うとは思ってもいなかったに違いない。

「スタートの後のスピードに乗るのが上手じゃない馬。距離が心配だった」と聴く人をドキッとさせたのは主戦のルメール。世界の短距離王で鳴らした父ロードカナロアのイメージならば、マイルの距離すら危ういと取りかねない。しかし、そうではなかった。「ラスト20mが大事だと思っていた。絶対に長い距離はいける。オークスも勝てると思う」と真意を丁寧に説明したのだ。

つまり、ゲートが遅いがために、マイルの流れに乗れるかが心配だった、ということだった。「ラスト20m」については、国枝調教師の言葉を借りればわかりやすいか。「稽古を見ていてもしまいにいくに連れてギアが上がる。フットワークがよくなる」。ラスト20mというギリギリのところでも、射程圏にさえ捕らえていれば差しきれてしまう…というのが、この名牝候補の恐るべき姿なのだ。

ルメールにとっての鬼門桜花賞だったとすれば…宿敵と見られていたラッキーライラックさえも屠ったのだ。もはやさえぎるものはないということでもある。「トリプルクラウンを狙える」ルメールが早くも牝馬3冠を意識すれば、これを受けた国枝師「なきにしもあらず、というところかな。勝ってきてるの(ラッキーライラック)を負かしてるんだし」と援護射撃。

次走はホームでレース経験もある東京競馬場。夏を越しての秋華賞を占うのは早いが、少なくとも次のオークスアーモンドアイにとってマイナスに出ることはなさそう。3冠は気が早いにしても、春の2冠はもはや確実と言っていいのではないか。

最後にこれは個人的な願望。国枝師アーモンドアイを評する時に出てきたのが「落ち着いていて自分をコントロールできる能力が高い」というもの。これこそが、父ロードカナロアも特徴としていたところだ。

父の調教をつけていた安田翔調教師(当時は調教助手)などは「2000mなら持つと思います」といって、オーナーサイド天皇賞・秋挑戦も持ちかけたという。こうした特性が、海外遠征にも十分に活かされたと記憶している。そして、その特色を強く受け継いでいるアーモンドアイならば…凱旋門賞とは言わないが、父同様に世界を股にかけた活躍ができるはずだ。日本馬がまだ見たことのない絶景を見せてくれることを、この和風美人には期待したい。