大一番に向けた英才教育が結実した勝利だった
文/山本武志(スポーツ報知)、写真/川井博
最近の
皐月賞はいつも
「難問」だ。一昨年は当時、ハイレベルと評判だったマカヒキ、サトノダイヤモンド、リオンディーズの「3強」の比較に頭を悩ませたが、終わってみればディーマジェスティが1馬身以上の差をつける完勝。昨年は何と牝馬のファンディーナが1番人気に押し出されるほど主役不在の状態だった。
そして、今年。レースの1週前に圧倒的主役となるはずだったダノンプレミアムがザ石のために
回避を表明した。各陣営が明らかに色気を持ち始めたのは、取材を通じて明らかだった。
例年をはるかに超える混戦ムード。特にダノンプレミアムという
「脅威」が消えた同型の先行勢の出方が読みづらかった上、レース当日は道悪。次から次へと
「難問」のレベルが上がり、最近のG1ではもっとも苦しんだかもしれない。
注目の先行争いは「逃げ宣言」をしていた
アイトーンに
ジェネラーレウーノ、
ジュンヴァルロが絡む。3頭で後続を引き離す形となったが、前半1000mが59秒2という時計を見た時、あれっと思った。4番手集団との差は10馬身以上。後ろのグループはまったく速い流れではない。しかし、
ワグネリアンや
ステルヴィオ、
キタノコマンドールはまだ後方集団にいた。人気を背負っている差し馬にとってはもっとも動きづらい流れに陥っていたと思う。
4角手前で各馬が一気にスパートを開始し、一気に馬群が凝縮したが、ゴール前で抜け出してきたのは
エポカドーロと
サンリヴァル。どちらも4番手集団を常に前めの位置で引っ張ってきた馬だ。道中で後続の人気馬とのセーフティリードを保ちつつ、しっかりと
「貯金」を活かした形だ。展開も読めない大混戦という前評判を、見事に結果に結びつけたと言える。
勝った
エポカドーロを管理する
藤原英厩舎はこれまで「勝利数」より「勝率」のイメージだった。1頭を丁寧に仕上げ、狙ったレースをしっかりとモノにしてきた。
しかし、今年はすでに
26勝を挙げ、全国リーディングのトップを独走中。今年、ある調教師にこんな話を聞いたことがある。
「今年の藤原英厩舎は明らかにレースの使い方を変えてきているよな」。例えば、今年は京都や阪神ではない、本場以外で少しメンバーも落ちる中京や小倉の裏開催へ積極的に遠征。確実に「数」を稼ぎ、10勝を挙げている。
エポカドーロの2勝目も小倉の
あすなろ賞だった。今回と同じ小回りの2000mへの起用。今から考えてみると、当時から
皐月賞という舞台を見据えた上で、ここへの出走を決断したのではないだろうか。
続く
スプリングSでは本番と同じ中山コースを経験させ、なおかつ1ハロンの距離短縮で控える競馬を身につけさせた。すべては
皐月賞のため―。大一番へ向け、丹念に戦略を練ることで知られる
藤原英調教師の英才教育がしっかりと実を結んだ勝利のように感じる。
実は②着の
サンリヴァルにも同じようなことが言える。この中間、
藤岡調教師からこんなことを聞いた。
「中山の2000mをいちばん走っているのは、うちの馬なんだから」。確かに昨秋のデビュー2戦目、
芙蓉Sから一貫して、この舞台のレースを使い続けてきた。
ホープフルSでは先行馬総崩れの中、唯一踏ん張っての4着。この舞台を見据えた上での起用法が、大一番での②着という結果に結びついた。
さて、いよいよ次は
日本ダービー。ただ、間違いなく
皐月賞以上の
「難問」となることは必至だ。今年の
皐月賞は舞台適性など様々な条件を味方につけた馬が上位を占めただけに、着順をそのまま鵜呑みにはしづらい。
弥生賞からのぶっつけとなる王者ダノンプレミアムの仕上がりはどうなのか。さらに、現時点で最大の惑星馬と言える
3戦3勝のブラストワンピースの底知れない能力…。直前まで大いに頭を悩ませつつ、戦国ダービーを楽しみたいと思う。