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鞍上の瞬時の判断の積み重ねも、それに応えた馬も見事だった
文/鈴木正(スポーツニッポン)、写真/川井博


まずは、勝ったもののゴール後に岩田騎手が下馬して心配されたレインボーラインは、右前肢跛行との診断が出たという。栄えある天皇賞馬が最悪の事態を免れたことに胸をなで下ろした。

岩田騎手は馬を信じ、決してブレなかった。それが勝因のすべてだ。向正面、ペースが緩みかけたところでサトノクロニクルアルバートトーセンバジルが上がっていったが、レインボーラインはまったく動かなかった。「我慢できるだけ我慢しようと思っていた。最後は必ずいい脚を使うから」岩田騎手はお立ち台で話したが、まさにその通り。ここで動かなかったことが直線、最後のひと伸びにつながったのだと思う。

最後の直線でのチョイスも見事だった。直線を向き、トーセンバジルの横を突くこともできそうだったが、こじ開けるとすれば、その時にスタミナを使う。それを避け、サトノクロニクルが下がるのを待って、インへと切れ込んだ。岩田騎手が周囲の馬の雰囲気をよく見ていたからこそのチョイスだ。

最後の最後、シュヴァルグランをかわす時もそう。外からかわす手もあったがインからかわした。外に行っていたら、クリンチャーが邪魔になったり、クリンチャーと併せることでひと伸びされる可能性もあった。やはり、インを突いたことが正解だった。「岩田騎手のイン突き」は一時、一世を風靡したが、当時とはまた違うインへのさばき。瞬時の判断の積み重ねによって引き寄せたVは実に見事だった。

期待に応えた馬も見事というしかない。パドックを見た時、いい意味で枯れてきたなと感じさせた。トモはパンパンに膨らむのではなく、少し細めで、動きやすく、可動域が広そうな雰囲気。良くなったステイゴールド産駒って、こうだよねというムードがあった。直線、最高速の中で岩田騎手のハンドリングに苦もなく反応できたのも、枯れたボディーのおかげなのだろう。

再度、強調したいが、道中で我慢するのは勇気がいる。この時期の京都は基本、前が止まりづらい。動かずに負けるより、動いて負ける方がまだ悔いが残らないから、混戦においては騎手は動きがちなのだ。人間心理として仕方ないのだが、それでも岩田騎手は我慢しきった。勝つにふさわしいメンタルだったと言えよう。

②着シュヴァルグランは1番人気となったことが最後まで重荷となった。象徴的だったのは勝負どころで自分からヤマカツライデンを捕まえにいったところだ。ガンコに任せておいて、先頭に立ったガンコを悠々と料理すれば良かったのだが、実は、これには理由がある。序盤、かなり力んだガンコの姿をボウマンは真横で見ていた。これはガンコは終盤、おそらく頼りにならんなと感じたはずだ。

だから、いつ失速するか分からないガンコに頼らず、自分からペースを上げていった。その分、早めに先頭に立たされ、周囲の目標となって差された。1番人気の宿命の前に敗れたといえる。思えばジャパンC優勝時は今となっては信じられないが5番人気。当時とは気持ちの面における戦いやすさに雲泥の差があったはずだ。

クリンチャーもよく走っている。4角手前で前が多少、壁になったが、この時に脚がたまった。三浦騎手が慌てることなく御し、前も空いた。あとは伸びるだけだったが、いかんせん、エンジンの噴き上がりはそんなに速くない。最後、レインボーラインと併せる形になっていたら、もしかしたらとも思うが、岩田騎手が併せることなくインへと勝ち馬を誘導したので、それもかなわなかった。力負けの形にも見えるが、元々はこういうきれいな良馬場よりは、水分を含んだようなパワーを求められる馬場の方が合っているタイプ。海外遠征の話も出ているようだが、おそらく馬場でいえば向くはずだ。

戦前、主役なき天皇賞とか、空前の混戦といわれたが、そういうメンバーでも結局、競馬は面白くなる。2コーナーで果敢に差を広げたヤマカツライデン松山騎手の心意気は良かったし、サトノクロニクルが上がっていったシーンも良かった。この2頭のおかげで競馬が非常に締まった。レースはたっぷり楽しめた。あとは勝ち馬のケガの症状が少しでも軽いものであるようにと祈るのみだ。