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まさに厩舎の経験がものをいった勝利
文/出川塁、写真/川井博


この春の東京芝は開幕週から速いタイムが続出しているが、それにしても5月12日(土)の準メイン・緑風S(芝2400m)が2分22秒9の決着になったのは驚いた。03年のコース改修以降、このコースでは05年JCのアルカセット、09年JCのウオッカに次ぐ3番目となるタイムが記録されたのだ。

準オープン馬でもJC級のタイムを出せるほどの高速馬場となれば、メインレースのG2・京王杯SCでもコースレコードが更新されることは容易に予想できた。さらにいえば、芝1400mで日本初となる1分18秒台に突入することも期待できそうだった。

競馬はあくまで着順を争う競技だし、脚元への負担を考慮すればタイムが速いことを無邪気に喜べるわけではない。しかしその一方で、見たことのない数字を見てみたいというスポーツ的な純粋な興味があることも否定はできない。それは、陸上競技や水泳でメダル争いだけでなく記録との戦いが話題になることや、野球でピッチャーがどれだけ速い球を投げられるかが大きな関心を集めることと同じだろう。

結果からいえば、ムーンクエイクの勝ち時計は1分19秒5。12年にミトラが記録した従来のコースレコードを0秒1更新したものの、マグナーテンとウリウリが持つ1分19秒0の日本レコードには及ばなかった。どこか物足りない気分も残ったが、それは勝手に期待したの都合にすぎない。重賞初挑戦かつ1400m戦初出走ながらG2のタイトルをものにしたムーンクエイクの走りを称えるべきだ。

スタートは五分に出て、道中は中団待機。セン馬ということからもわかるように気難しいところがある馬で、ここでも行きたがる素振りを見せてはいたが、鞍上のC・ルメール騎手がギュッと手綱を絞って折り合いをつけて、4角の手前からはスムーズに外へと持ち出して直線勝負に備える。

直線に入っても馬群は一団のままで、何が抜け出してくるかわからない状態が長く続いた。そのなかから、まず脚色がよく見えたのはキャンベルジュニア。最後方に近い位置にいたサトノアレスも、大外を回って一気に先頭争いまで顔を出してきた。そして、そのあいだから渋太く脚を使って伸びてきたのがムーンクエイクだ。最後はこの3頭の叩き合いとなり、真ん中からグイッと頭ひとつ抜け出したムーンクエイクが先頭でゴールした。

管理する藤沢和雄調教師は、これでなんと京王杯SC7勝目。③着のサトノアレスも管理しており、通算成績は[7.2.3.13]、勝率28.0%、複勝率48.0%、単勝回収率288%、複勝回収率120%となった。来年以降もこのレースに管理馬を送り出してきたら買いの一手だ。

また、ムーンクエイクは3歳の夏に去勢されているが、去勢前が[1.2.0.1]、去勢後が[5.1.0.2]だから、この判断は正解といっていい。セン馬にすれば全部走るわけではなく、かえって成績を落とす馬も少なくない。その点、藤沢和厩舎は以前からセン馬を多く管理しており、去勢がプラスに働きそうな馬を的確に見抜けるのだろう。

さらにいえば、母リッチダンサーの産駒も重賞3勝を挙げたバウンスシャッセなど計6頭を管理しており、この血統の特徴も熟知している。こうして考えると、まさに経験がものをいった勝利といえる。

惜しかったのは②着のキャンベルジュニアだ。17番枠から出していき、外に壁を作れない状態でも折り合って末脚をしっかりと引き出した。昨年から好調を維持する石橋脩騎手のレース運びは実に冴えていたが、結果的に直後につけていたムーンクエイクにとっての格好の目標となってしまった。前走のダービー卿CTに続く②着で、これで重賞では3度目の②着。あと一歩が届かないが、生まれが半年遅い南半球産馬だから成長の余地はまだ残されている。

なお、1番人気に推されたダンスディレクターは、見せ場なく着に敗れている。これにより、00年以降、平地重賞で8歳以上の馬が1番人気に推された際の成績は[5.0.0.7]となった。勝率41.7%だから決して悪い成績ではないが、今年のダイヤモンドSのフェイムゲームのように勝つか、さもなくば馬券圏外に沈む傾向にある。年に1回あるかどうかのシチュエーションではあるが、覚えておいてもいいだろう。