昨年のエリザベス女王杯上位馬が不在で、「現状ではマイル」の3頭が好走
文/浅田知広、写真/川井博
古牝馬のG1といえばこの
ヴィクトリアマイルと、秋に行われる
エリザベス女王杯。距離がまったく異なるため、それほど関連は強くないが、今年の
ヴィクトリアマイルは、昨年の
エリザベス女王杯①~⑦着馬が不在というメンバー構成になった。これまで、前年の
エリザベス女王杯で掲示板に載った馬が1頭もいなかったのは08年の1度きりである(
エリザベス女王杯取消のウオッカが②着)。
では世代交代かといえば。
エリザベス女王杯よりもさらに前、前年の
ヴィクトリアマイル①②③着の
アドマイヤリード、
デンコウアンジュ、
ジュールポレールは今年も駒を進めてきて、連覇を狙う
アドマイヤリードが2番人気。そして、これを抑えて1番人気になったのは4歳馬でこそあるものの、
エリザベス女王杯は「最先着」でも⑧着だった
リスグラシューと、一気に世代交代が進んだというわけでもなし。一応、3番人気には昨年の
NHKマイルCの覇者で
エリザベス女王杯不出走の
アエロリットが入ったが、ちょっと各馬とも決め手に欠けるメンバー。そんな様相を反映して1番人気でも単勝4.3倍という
混戦模様となった。
こういうときは実績があっても人気のない馬。このメンバーなら、同じ稍重馬場だった昨年の②③着馬
デンコウアンジュ(11番人気)や、
ジュールポレール(8番人気)。あるいは、やはり稍重で
桜花賞を勝ち、
マイルCSも④着の
レーヌミノル(9番人気)あたりがおもしろそうなところ。まあ、
いずれにしてもひと波乱ありそうだ、そんな印象を持ってスタートを迎えた。
レースは
カワキタエンカが先手を奪い、
リエノテソーロ、
レーヌミノルに、さらに
アエロリットと、4歳勢が前を固める展開。その後ろに、一昨年の
秋華賞⑤着以来、久々のG1出走となった
レッドアヴァンセ。中団に
ジュールポレール、
アドマイヤリードに
デンコウアンジュと、昨年の上位勢。これを見て1番人気の
リスグラシューという位置取りになった。
前半の600m通過は35秒2で数字の上ではスローだが、雨が降り続く中で果たして本当に遅いのかどうかという流れ。ただ、先行勢はなんとなく皆、余力を持って4コーナーを通過したように見受けられた。
そんな手応え通り、直線に向くとまず前のグループから
アエロリットが単独先頭。そして、これを直後から一気に交わしたのが
レッドアヴァンセだった。残り200mでリードは半馬身、食い下がる
アエロリットを突き放せば、そのまま勝利も見えてくるかという態勢だ。
しかし、その外からこれに襲いかかったのが中団勢だった。残り50mで
ジュールポレールがまず
レッドアヴァンセを交わし、そして外から
リスグラシューが強襲。ゴール前は2頭の際どい争いになったが、わずかに
ジュールポレールが
リスグラシューの追撃を封じ、
昨年③着の雪辱を果たしたのだった。
ジュールポレールは昨年、中団からじりじりと脚を伸ばしたものの、ゴール前で切れ負けしたような形での③着敗退。
エリザベス女王杯は距離が合わず⑯着、そして前走の
阪神牝馬Sは先行して伸びきれずに⑤着と、ちょっと一線級相手に勝ちきるまではどうか、という競馬が続いていた。
しかし今回は、中団の外で4コーナーを通過すると、直線残り400mあたりでムチが入って一気の伸び。前を行く
レッドアヴァンセをきっちり捕らえ、そして後ろから来た
リスグラシューの追撃もハナ差でしのいでG1奪取。もちろん鞍上・
幸騎手の
絶妙な騎乗もあったが、雨で刻々と馬場状態が変化していく中、この馬の今回の走りと馬場がちょうどぴったりかみ合って、ハナ差勝ちになったとも言えるだろう。
そして②着には、
阪神JFからここまで出られる牝馬G1(芝)には皆勤し、
エリザベス女王杯⑧着以外すべて掲示板という4歳の
リスグラシュー。そして③着・5歳の
レッドアヴァンセは久々のG1出走と、それぞれまったく違うようなタイプの①②③着。3連単6万馬券という配当以上に、
ちょっと難しかったかなあ、という印象だ。
ただ、この3頭に共通して言えそうなのは
「現状ではマイル」。昨年の
エリザベス女王杯上位馬不在の中、⑯着だった
ジュールポレールと、⑧着
リスグラシューによる①②着。
レッドアヴァンセも古馬になってからは折り合い面からマイル前後が中心の出走だ。特に、
リスグラシューは2000m以下なら複勝率100%。勝った
ジュールポレールもマイル以下で掲示板を外していないだけに、このあと牡馬相手の
安田記念に駒を進めても一発の期待を持てる存在になる。
と同時に、その結果次第で秋は
マイルCSへ進むことになるだろう。つまり今度は
エリザベス女王杯が「同年の
ヴィクトリアマイル上位馬不在」というレースになる可能性もある。3歳勢次第ではあるが、今回と同じような
大混戦の牝馬G1がやってくるなら、また
予想の楽しみも増えそうだ。