歴史的名牝であることを世に知らしめた
文/鈴木正(スポーツニッポン)、写真/川井博
いいものを見た。
アーモンドアイの独り舞台。他の16頭は引き立て役でしかなかった。
歴史的名牝であることを世に知らしめた一戦。
アーモンドアイの何が凄かったのかをしっかりと説明したい。
互角のスタートから6番手追走。まず、これに驚いた人は多いだろう。先手を取りに行った
サヤカチャンが隣だった。これがまず1つ。コーナー4つの競馬が初めてだったので最初のラップが遅く感じた。これもそうだろう。そして何より、
アーモンドアイ自身の能力が上がったからと思えた。馬なりで走るスピードそのものが他馬とのリズムが合わないほど上がってしまった。そう感じた。
だが、そこで折り合いを欠かないのが
アーモンドアイのいいところ。2角手前では息も入り、スムーズな走りになった。個人的には、この瞬間に勝ったと思った。
直線の走りは圧巻だった。何度見てもため息が出る。ところどころで手前を替えるのだが、そのたびにギアが上がった。
リリーノーブルを捉えんとする時、並んだ時、そしてかわす時。そのたびに
アーモンドアイは手前を替え、自分を鼓舞した。
気がつけば30年も競馬を見ているが、手前の変換をこのように使う馬は初めて見た。いや、もちろん本当のところは馬に聞かないと分からないのだが、ビデオをスローにして見る限りでは、自分に気合を入れた時に手前が替わっているとしか思えない。そのたびにギアを上げ、直線で4度目に手前を替えた時に
リリーノーブルを豪快に突き放した。
先頭に立った後の走りも見てほしい。
リリーノーブルより明らかに前脚が高く上がっている。そして完歩が大きい。まだ余力があるのだ。直線をパトロールビデオで見ると、また味わい深い。前脚が高く上がり、力強く跳ね上がる様子がよく分かる。さらに言えば、
リリーノーブルとの胸前の大きさの違いも明確だ。
桁外れの排気量は、このトップクラスの内臓から来るのだ。
上がり3Fは33秒2。05年シーザリオの33秒3、09年ブエナビスタの33秒6を上回った。データの取れる範囲で最速。まあ、データのない時代を含めても、おそらく
オークス最速だろう。07年ウオッカは
ダービーで33秒0を出したが、
オークスにおいては
史上最高の切れを示した。
パドックを見た時は少しドキッとした。
ロードカナロアにだいぶ雰囲気が似てきたからだ。ならば距離は?と思ったがまったくの
杞憂だった。同世代相手だから我慢できたということではなく、秋になって古馬と戦っても2400mまでなら大丈夫なのではないか。
有馬記念は2500mだが、その特異なコース設定からも距離面の
不安はないだろう。もっともドンピシャの距離がマイルやスプリントである可能性もゼロではないが、それを試すのはまだまだ先でいいだろう。
この馬を見て思い出すのは12年の3冠馬ジェンティルドンナである。オークスの勝ちタイムも
アーモンドアイ2分23秒8、ジェンティルドンナ
2分23秒6と似ている。ちなみに、2分23秒台で
オークスを制したのは、この2頭だけだ。
オークスVまでの足跡も似ている。未勝利を勝った後、牡馬相手の
シンザン記念にぶつけて勝ち、2冠へと上り詰めた。ジェンティルドンナはその秋、
秋華賞を勝った後、
ジャパンCでオルフェーヴルを破る
大金星。その後も
ドバイシーマクラシックや
有馬記念を勝って
名牝の称号を欲しいままにした。
アーモンドアイも
それほどのクラスの馬であることを
オークスで証明した。史上5頭目の牝馬3冠は相当確率が高いであろうし、堂々と海外へと乗り込んでいい馬だと思う。
引き立て役になってしまった②着
リリーノーブル、③着
ラッキーライラックともに例年ならG1に手が届くレベルだ。
生まれた年が悪かったと言われる典型だ。
リリーノーブルは最内枠を活かし切り、直線は伸びる外へ。
川田騎手のエスコートは完璧だった。
ラッキーライラックも序盤の力みはあったが問題はなかった。直線で
アーモンドアイに併せたかったが、内に行かざるを得ない不運もあった。ともに全力を尽くし、
オークスを盛り上げた。