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連闘を克服した馬も勝利に導いた鞍上の手腕も見事だった
文/後藤正俊(ターフライター)、写真/川井博


世界に誇る日本競馬の中でも、マイル路線がもっともレベルが高く、層の厚いカテゴリーではないだろうか。昨年の安田記念は1分31秒5とレースレコードに0秒2差に迫る好時計だったが、④着までは0秒1差で、⑨着までが1分31秒台で走破した。

①着サトノアラジンは秋初戦に毎日王冠②着、②着ロゴタイプはこのレース限り引退となったが、③着レッドファルクスは秋初戦のスプリンターズS制覇、④着グレーターロンドンは毎日王冠③着、5着エアスピネルはマイルCS②着、⑦着ステファノスはオールカマー②着、⑧着イスラボニータは阪神C①着など、上位馬の多くが秋競馬でも主役級の活躍を見せた。東京マイルでハイレベルな能力を見せる馬は、他のカテゴリーでも十分に通用することを示しており、秋競馬を見据える意味でも見逃せないのがこの安田記念だ。

今年はG1馬7頭が顔を揃える中、1番人気にはここがマイル初挑戦となる現役最強馬スワーヴリチャードが2番人気以下をかなり引き離して推された。そのスワーヴリチャードは心配された出遅れもなく、デムーロ騎手は1番枠を活かして内の中団で我慢。直線で前が開くと先に抜け出したアエロリットに襲い掛かったが、最後までこれを捉えることができず③着に敗退した。

最高の騎乗を見せながらの③着は、能力の高さは示したものの、やはりマイル適性の差があったように見えた。決して悲観する内容ではないが、今後再び中長距離路線を進む際にこの安田記念を使ったことが、スピード競馬の経験したことでプラスに働くか、折り合い面でマイナスにつながるか、注意深く見ていく必要がありそうだ。

②着アエロリットも最高のレースを見せた。逃げ主張したウインガニオン、抜群のスタートを切ったレーヌミノルを前に行かせて、絶好の内3番手のポジション。前半800m45秒5、後半が45秒8レースのラップからしても、アエロリットの位置はまさに前後半がまったく均等の完璧なペース配分。しかもコースロスがまったくないまま、直線で抜け出したのだから、これ以上はないという騎乗戸崎騎手が見せた。それでもクビ差②着は、この20年間で男勝りだったウオッカしか牝馬は勝っていない厳しい東京マイルG1での、牡馬との差が出たのかもしれない。

優勝したのは9番人気モズアスコットだった。G1でルメール騎手の騎乗馬が9番人気以下という低評価だったのは16年エリザベス女王杯のシングウィズジョイ(12番人気)以来のこと。しかもその時は②着となっている。思い返せば、昨年の有馬記念も8番人気クイーンズリングを②着に持って来た。やはりこの男を見くびるとえらい目に遭うということなのだが、それでも連闘でここに臨んだモズアスコットを買いにくいと思っていたファンは多かった。

それはそうだろう。予定通りの連闘ならばともかく、同馬は登録時点で19番目の除外対象。仕方がなく先週のオープン特別、安土城Sに出走したが、スタートで出遅れて②着敗退。安田記念登録馬で賞金上位だった藤沢和厩舎勢3頭がレース4日前に回避を決めたことで、滑り込みで出走にこぎつけた事情があった。1989年にバンブーメモリーがシルクロードSからの連闘で安田記念を制したことがあったが、当時も予定通りの連闘策。急きょの連闘でG1というと、やはり評価を割り引かざるを得なかった。

そのローテーションを見事に克服したモズアスコットはもちろんすごかったのだが、それ以上にルメール騎手の騎乗は神がかっていた。②③着馬と同様に道中は内で我慢し、直線を向いても内で進路を探る。いまの東京の馬場は外に持ち出したら届かないことを十分に承知していた。

目の前にデローム騎手スワーヴリチャードを見つけると、この直後にピタリと付けて、その動きを注視。デムーロ騎手の左ムチで同馬がやや外にヨレると、その一瞬の隙を逃さずに仕掛けて、内から一気に抜き去る。さらにアエロリットに馬体を併せてクビ差競り落としての優勝。

まるで平昌五輪スピードスケート・マススタートの高木菜那選手の金メダルを再現するかのようなレースだった。終わってみれば日本を代表する3騎手の組み合わせで3連単6万3280円。馬の能力を最大限に引き出す3騎手の腕を改めて見せ付けるような安田記念だった。

モズアスコットは父が世界のマイル王、14戦全勝のフランケル。母が米国重賞2勝のインディアという世界的な良血。デビュー前から種牡馬入りが約束されていたような良血馬だったが、このG1勝利で日本におけるフランケルの種牡馬としての価値を増大させた。

もちろん今後の競走でも楽しみだが、それ以上に種牡馬入り後、ディープインパクトのように世界から交配に訪れるのではないかと期待が膨らむ。1分31秒3の勝ちタイムは12年ストロングリターンに並ぶタイレコードだっただけに、厳しいローテーションも相まって脚元への負担がなかったことを、このまま無事に競走生活を全うして種牡馬入りすることを願うばかりだ。