豊富な道悪経験を活かし、嬉しい重賞初制覇
文/出川塁、写真/小金井邦祥
台風の接近に伴い、この日の府中は未明から雨が降り続いた。東京競馬場の馬場状態は午前中こそ芝ダートともに
良馬場だったが、段階的に悪化し、特別戦が始まる頃には
重馬場となっていた。
メインレースは
エプソムC。この芝1800m重賞が道悪で行なわれたのはいつ以来かなと記憶をたどってみたものの、すぐには思い出せない。調べるとエイシンデピュティが勝った07年が稍重だったので、11年ぶりの道悪ということになるようだ。
それ以前の98年から07年までの10年間は、稍重~不良の開催が6回もあった。梅雨どきのレースなので、本来はこうなっても不思議はない。逆にいうと、08年から昨年までの10年間がすべて良馬場だったのは、
ちょっとした奇跡だったようにも思えてくる。
それはともかく、レースを振り返っていこう。出遅れた
アデイインザライフを除き、15頭はほぼ横一線のスタート。過去の戦歴から逃げそうだった
マイネルミラノは先手を主張せず、約2年ぶりの復帰戦となる
スマートオーディンがハナを奪うかたちとなった。
向こう正面で馬群は内ラチを離れた位置を進む。午前中の第3Rや第4Rではラチ沿いを通っていただけに、やはり馬場が悪化しているのだろう。1000m通過は59秒6。
スマートオーディンの手綱を取る
武豊騎手らしい緩みのない逃げで、馬場を考えればハイペースといえる。
動きがあったのは3~4コーナー。距離得を狙った
マイネルミラノがインを通って先頭近くまでポジションを押し上げていく。逃げなかったのはこれを狙っていたからなのか。もっとも、やはり荒れた馬場を通った負担は大きかったようで、直線ではあまり見せ場を作ることができないまま⑪着に敗れている。
直線の攻防は東京の広い馬場の真ん中で繰り広げられた。逃げた
スマートオーディンもよく粘っていたものの、残り300m時点で脱落。そこで一気に襲いかかってきたのが、大外16番枠から終始馬群の外を回った
サトノアーサーだ。抜け出したあとの脚色も確かで、
グリュイエールの追い上げを抑え、さらに外からすごい勢いで追い込んできた
ハクサンルドルフも封じて先頭ゴール。15年の
セレクトセールで
2億円を超える価格で取引された期待馬が、嬉しい重賞初制覇となった。
ダービーと
菊花賞こそふたケタ着順に敗れた
サトノアーサーだが、2000m以下のレースに限ればこれで
[4.3.1.0]と凡走なし。また、過去10戦中4戦が道悪と、荒れた馬場の経験も豊富だった。今走を含めた道悪成績は
[3.1.0.1]。唯一の着外は
菊花賞だから、適距離ならオール連対といっていい。
前走も同じ東京芝1800mの
メイSを使っていた。このときは高速馬場で③着まで。同条件で馬場状態が替わって巻き返した格好となった。高額取引された
ディープインパクト産駒というと、いかにも良馬場の切れ味勝負に強い印象がある。これまで、
サトノアーサーもそんなタイプに思われてきた節もあるのだが、実際には道悪巧者といって差し支えない成績を収めている。
逆に、高速決着の
メイSを制し、ここでは1番人気に推された
ダイワキャグニーは馬場に泣いた。スタート直後から
横山典弘騎手が手綱を動かして行く気を促していたものの、むしろ道中ではポジションを下げていく。4コーナーでインを突いたのは手応えのなさをコース取りで補おうとしたのだろうが、まったく伸びず、⑭着の大敗を喫することになった。
キャリア10戦の4歳馬というのは、勝った
サトノアーサーとまったく同じ。ただし、こちら過去のレースがすべて良馬場だった。父の
キングカメハメハには道悪をこなす産駒も多いだけに、血統面からは大丈夫そうにも思えたのだが、残念ながらそうではなかったようだ。
最後にもう一度触れておきたいのが
スマートオーディンだ。ペースの厳しさもあって息切れしたものの、道中の走りは決して悪くなかった。無事に使えるようなら、次はチャンスがあるのではないか。
これはセルフ格言だが、
「屈腱炎持ちの馬は、休み明け初戦か叩き2戦目で買い」そもそも。能力がある馬でなければ屈腱炎からの復帰は目指さないものだし、いつ再発するかわからないから早めに勝負をかけてくる。
休み明け初戦で狙えるのは主に条件クラス。
エプソムCで③着に好走した
グリュイエールも屈腱炎で2年以上も休養していたが、復帰戦となった1600万下の前走を勝っていた。重賞クラスになるとさすがに長期休養明けは厳しいところもあるので、この場合は叩き2戦目が狙い目。
スマートオーディンがさほど間隔を置かずに出走できるようなら、早くも買う気満々である。