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出来の良さと好騎乗が噛み合い、悲願のG1制覇
文/山本武志(スポーツ報知)、写真/森鷹史


これほどまでに大きな存在だったのか。今年の上半期、古馬の中長距離戦線は常に混沌(こんとん)としていた。すべては昨年末にキタサンブラックが引退したため。昨年はこの名馬が春のG1・3戦にすべて出走し、驚異的なレコードだった天皇賞・春など2勝。圧倒的な存在感を示していた。

しかし、今年は天皇賞・春を制したレインボーラインがレース中の故障で引退。大阪杯の勝利でこれからの時代を引っ張るであろうと思われたスワーヴリチャードは安田記念で③着に敗れた。今の日本競馬の主役はどの馬ですか? その質問に即答できる競馬ファンはおそらく少ないだろう。

さて、宝塚記念。こんなに予想に苦しんだ年はなかった。本来ならば地力断然のサトノダイヤモンド長いトンネルから抜け出せずにいる。復活に調教の工夫を施していたが、1番人気までの信頼感は伝わらなかった。昨年の菊花賞馬のキセキもそれ以後、成績が振るわない。ヴィブロスサトノクラウンダンビュライトは海外遠征明け。さらに、こんな大混戦の年に21年ぶりの外国馬、ワーザーの参戦が思考回路の混乱に拍車をかけて…。

最終的に状態のよさと取材の感触を重視した上、ミッキーロケットに本命を打った。正直、G1では善戦マンのタイプ。G1前の取材では関係者から「相手が強いから」という言葉、雰囲気が伝わってきていた。しかし、今回は違った。担当の橋本美助手「今回はチャンス」と言えば、和田騎手「狙えるところにある」と。音無調教師「具合は本当にいい」と何度も口にする。確かに坂路では今までにない、すごみの伝わる動きを連発。「格より出来」。それが今回の結論だった。

道中は中団を追走し、勝負どころでは内をうまくさばいて、直線入口で先頭という早めの進出。前半5ハロンが59秒4と決して楽ではない流れだったが、状態面に確かな手応えがある和田騎手は強気の競馬に出た。外から詰め寄るサトノダイヤモンドヴィブロスなどを直線半ばで突き放し、最後は相手が来れば来るほど伸びそうな末脚でワーザーをクビ差封じ込んだ。3歳秋にコンビを組んでから、騎乗停止中だった今年の京都記念以外の12戦に騎乗。愛馬の特徴を知り尽くす和田騎手だからこそできた、好騎乗と言えるだろう。

和田騎手にとっては、実に17年ぶりのG1勝利。JRA史上最多タイのG1・7勝を挙げ、昨年までは最多獲得賞金馬だったテイエムオペラオーとのコンビ以来だ。しかし、その相棒は今年5月17日に天国へ旅立った。そのコンビをずっと任せてくれた師匠で、「自分の競馬人生の中ですべて」と言い切る岩元調教師も今年2月で定年引退した。「オペラオーが後押ししてくれましたね」。大きな節目が重なった18年の上半期。最後の大一番で出した最高の結果に声を詰まらせるシーンには、見ている方もグッときた。

和田騎手には常に感心させられることがある。それは追い切りがある水、木曜日だけではなく、競馬開催日や全休日以外の火~金曜日に、ほとんどトレセンに出てくること。一度、その理由について聞いたことがある。「普段の運動から試したり、追い切りの準備をできたりする。色々と調整法があるから面白いんです」。今月14日には前夜に川崎で午後8時10分に発走の関東オークスに騎乗しながらも、最終電車で戻り、早朝の調教に騎乗していた。昨年はキャリアハイの96勝。普段のたゆまぬ努力が花を咲かせつつある。

悲願のG1初制覇にスポットライトが当たる一方で、上位馬は総崩れと言っていい状態。復活をかけたサトノダイヤモンドは積極的な競馬を見せたが伸びを欠き、昨年の菊花賞馬キセキや昨年の勝ち馬サトノクラウンは見せ場すらなかった。正直、主役不在の状態は馬券的に面白い。そして、希望的観測込みで、キタサンブラックの引退後は各馬が一進一退を繰り返し、拮抗することで日本競馬の全体的な底上げにつながるかもしれないとも考えていた。

しかし、香港馬のワーザーに考えを覆された。前走から27kg減で本調子にあるとは思えなかったが、内有利の馬場で外を回りながらも強烈に伸びてきての②着。香港の年度代表馬に輝いたほどの名馬ではある。ただ、ここまで「強い」競馬をされるとは思ってもいなかった。そして、日本競馬の停滞を感じずにはいられなかった。今年は複数頭が遠征したドバイでも香港でも未勝利。上半期の総決算であるグランプリを見た後、現状の日本競馬に対しての危機感が芽生えつつある。秋には日本競馬に確たる「主役」が誕生してほしい。これが一競馬ファンとしての切実な願いである。