「偶然」が重なり合ったように見えて、勝利は「必然」だった
文/編集部
昨年の日経新春杯のこのコーナーでは、
「良馬場発表ながら小雨が降り、微妙に重い馬場状態が勝敗を分けた」といった趣旨の文章を記したが、まさか今年も同じような状況になろうとは、思いもしなかった。
昨年は6Rから
「小雨」となり、11Rの
日経新春杯も
「小雨」だった(馬場状態は
「良」)。一方、今年は7Rから
「雨」になり、その後も終日
「雨」(馬場状態は
「良」)。
「小雨」と
「雨」をどれほどの違いで使い分けているのかは知らないが、昨年も今年も馬場状態は良馬場で、最終競走のダート戦も良馬場で行われたことを考えれば、ほとんど同じような馬場状態だったのだろう。
そして、これも昨年に記したことだが、
テイエムプリキュアが
阪神JFを制した時も
「雨の良馬場」だった。
阪神JFの前走・
かえで賞(京都芝1400m)を勝った時は
「曇の良馬場」だったが、当日の午前中には
雨が降り、ダートは終日
「稍重」で行われている。
さらに言えば、昨秋に
アルゼンチン共和国杯で
僅差の4着に粘った時も
「曇の良馬場」だったが、ひとつ前のレースまで
小雨が降っていた。
パラダイスクリーク産駒は
道悪での好走歴が目立ち、
テイエムプリキュアもその血を受け継いでいるのだろう。大敗も多い馬ではあるけれど、
雨や
小雨が降って微妙な馬場状態になった時は、いつでも自分の力を発揮してきた。そして、今回もそうだった。
昨年3着だったものが
今年1着となった背景には
、ハンデが1kg減り(50kg→49kg)、6歳になっても力が衰えていないことが挙げられるだろうが、それより何より、
自らペースを握って、荻野琢騎手が絶妙な流れを作り出したことが大きいだろう。
昨年はハナを切ったのが
ワイルドスナイパーで、
テイエムプリキュアが先頭に立ったのは3コーナーからだった。昨年の方が馬群が固まっていたが、1000m通過は
60秒7。それほどペースが緩むことはなく、それが
37秒4という上がり3Fにも影響を及ぼしたと思われる。
対して今年は、最初から
テイエムプリキュアが先頭に立ち、前半の1000mを
61秒1で通過している。2番手に付けた
メジロコルセアとの差は5馬身以上あっただろうか。形の上では離して逃げていたが、ペースは昨年ほど上がっていなかったのだ。
厩舎サイドからの指示だったようだが、3コーナーを過ぎた辺りから
荻野琢騎手はペースを上げ、ここで付いていこうと動いた馬は、結果的に最後の直線で伸び切れていなかった。今年の上がり3Fは、昨年のそれに比べて0秒8速い
36秒6。これでは後続馬に差せと叫んでみても無理な注文だった。
距離や
馬場状態、そして、
軽ハンデに
ペース配分と、すべてが合致して
テイエムプリキュアは快勝したわけで、それらが重なり合ったことは
「偶然」のようにも見えるかもしれないが、天候や軽ハンデ以外は自らたぐり寄せたもの。勝利は
「必然」だったろう。
テイエムプリキュアはこれが引退レースで、今後は繁殖入りするとの報道がされていたが、もしそれが本当なら、見事な幕引きだったと言える。
引退レースで雨が降ってアシストした、というより、
引退レースで雨を降らせた、と見えてしまうから不思議だ。
惜しむらくは、
稍重~不良の道悪芝での出走が一度しかなく、それが
半年ぶりの出走(07年京都金杯・16着)だったことか。
「小雨の良」や
「雨の良」ではなく、
「どしゃぶりの道悪」を絶好の体調で走る機会があったら、どれだけの強さを見せたのだろうか。そんな妄想を抱いてしまう。
これで引退するということであれば、その道悪適性は産駒に受け継がれることに期待しよう。3年後まで忘れないように、みなさんも心に刻んでおきましょう(笑)。
今回のレースには何頭かの上がり馬がいたものの、結果的には脚を封じられるような形で敗戦することになった。だが、昨年の
アドマイヤジュピタがそうであったように、次走以降、芝の状態が良くなれば、巻き返すチャンスはいくらでもあるはずだ。
良馬場発表ではあったけれど
雨が降っていた。次に出走してくる時は、その事実を忘れずに思い出しましょう。これは3年間も温める必要はなく、使える機会がすぐにやってくると思います(笑)。