パドックでの姿は『王者の風格』すら感じさせた
文/編集部
ある競馬好きの知人で、
「基本的にずっとパドックに張り付いていて、レースはまったく見ず、パドックを離れるのは馬券を買いに行く時と、食事やトイレに行く時ぐらい」といった、一風変わった男がいる。
自分は彼と違って、
馬券売り場の近くで競馬新聞を見ながら検討→馬券購入→コース前へ行ってレース観戦、というのが基本パターンなので、一緒に競馬場へ行くと、同行していながら、場内で彼と一緒に過ごす時間は少ない。
それでもたまに、パドックへ行って少し話をするのだが、彼はしばしば、人気薄の馬の複勝を獲ったという戦果を聞かせてくれる。パドックでよく見えたのだという。
そんな彼が、ある時、
彼流のパドック診断法の一端を話してくれた。
自分には、分かったような分からないような話だったが、なんでも、あるレースの出走馬がパドックに入ってきて、
「最初に1周した時の様子をよく見ておいて、それをベースに様子の変化を見ていくと、良い馬、悪い馬が発見しやすい」ということらしい。
それはつまり、
「パドックの周回時間内におけるタテの比較が大事なのかな?」と、自分なりに解釈した。
周回の1周目は、通常、ひとつ前のレースが発走する時間ぐらいに始まる。しかし、レース終了後にパドックへ向かうと、周回の1周目から5~10分ほどたった後に見始めることになってしまう。それでは、
「パドックの周回時間内におけるタテの比較」として、不十分ということなのだろうと。
根岸Sは、そんな彼のことをふと思い出して、いつもはやっていないことだが、10Rの
節分賞の馬券を買った後、レースを見ずにパドックへと足を向けた。
聞こえるか聞こえないか微妙な感じで、10Rのレース実況放送が流れる。しかし、それには耳を一旦ふさぎ、
根岸Sの出走馬たちがパドックに入ってくる様子を食い入るように見ていた。
問題の最初の1周目…………正直、どれも大差ないように見える(笑)。目立つ感じでイレ込んでいる様子の馬もいなければ、唸るほど好馬体、好印象といった馬も、自分の見た目の印象からは特にいない。
「やっぱり、めったにパドックに来ない人間がいきなり来たからって、分かるもんじゃないよなあ」と、半分あきらめの気持ちで見続けていると、5分ほどたってから、各馬になんとなく違いが出始めてきた(気がした)。
パドックを何周も回っているストレスなのか、
チャカつきはじめた馬がいる。
だんだん元気がない感じになってきた馬もいる。そして、そうした馬が増えてきたことで逆に、
パドックの外目を元気良く周回している馬(一般的に注目とされるタイプ)が、目立って映るようになってきた。
馬名を挙げてみる。その
「パドックの外目を元気良く周回している馬」として見えたのは、内枠から、
3枠5番の
ブイチャレンジ、
5枠9番の
フジノウェーブ、
6枠11番の
フェラーリピサの3頭だった。
結局、めったに見ないパドックの印象から馬券を買うなんてことは、怖くてできなかったが(笑)、とはいえ、
フェラーリピサは素人目からも、本当に、外目を堂々と、あたかも他馬を見下ろすかのように周回している様子が印象的だった。パドックで周囲からもポツポツ、
「フェラーリピサはいいなあ」という声が聞こえる。
フェラーリピサは、競馬新聞にも記載があったが、
「顔面神経痛」を発症していたとのこと。昨年9月に
エルムSを制した時以来、
約4ヶ月半の休み明けで、陣営の苦労は相当のものだったのではと想像される。
しかし、その甲斐あってか、パドックでは非常によく見えたし、ゲートが開いた瞬間、元気が良すぎるぐらい、抜群の好スタートを切っていたのも印象的だった。
他に行きたい馬には先に行かせ、自分はさっと好位に控えて、直線に入って残り300m過ぎぐらいで満を持して先頭に立つ。結果的には
ヒシカツリーダーと
クビ差だが、
着差以上の完勝と思える内容だった。
自身が持つ、東京ダート1400mのコース・レコード(
1分21秒9)の更新とはならなかったが、勝ち時計
1分22秒1は、
ノボトゥルー(01年)のレース・レコードと並ぶ好時計。タイムとしても文句なしだった。
今年の
根岸Sは、3連単の1番人気が
118.2倍。
「どの馬が勝っても不思議なさそうな混戦」といった様相だったが、周回の1周目からパドックに張り付き、
フェラーリピサに
「他馬を見下ろす王様のような風格」を感じていた自分としては、10回やって10回とも勝つとまでは言わないが、
「10回やって6~7回は、フェラーリピサが少なくとも連対は確保するかもな」といった印象を、レース後には持った。
次走で予定している
フェブラリーSは、
カネヒキリ、
ヴァーミリアン、
ダイワスカーレットなど、今年は例年以上の強力メンバーが出走を予定している。
カネヒキリが先日の
川崎記念で、
G1(Jpn1)・7勝目という記録を達成したのに対して、
フェラーリピサはこれまで
ダートのG1(Jpn1)に出走経験すらない。普通に考えれば、厳しい戦いが予想されるだろう。
しかし、今回のパドックで見せた
「王様のような風格」、そして
ここ5走が①①②②①①着(重賞連勝中)という成績を考えると、
フェラーリピサ自身も、以前よりパワーアップした可能性を感じさせる。
フェブラリーSで
フェラーリピサは、どんな着順になるのかという視点だけでなく、
「次走も今回と同様、パドックで堂々たる姿を披露してくれるのか」といった点も含めて、楽しみにしていたい。