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サクセスブロッケンの勝因は“若い力”とマイル適性の高さ
文/石田敏徳

「まさか勝てるとは思っていなかった」

レース後に行われた共同会見の開口一番、サクセスブロッケン藤原英昭調教師はそんな内心を告白した。高い能力を秘めていることは分かっている。しかしその能力が、本当の意味で開花するのはもう少し先だろう。彼はそう考えていたのだという。

2年連続で勝率部門の首位に輝いた新進気鋭のトレーナーが、“弱気”に陥っていたのも無理はなかった。後続を大差にちぎりすてる衝撃的なデビューを飾った初陣の後、ダートで連戦連勝を続けてジャパンダートダービーに優勝。

こと砂の舞台では同期生相手に無敵の強さを誇ってきたサクセスブロッケンだが、古馬相手の戦いに歩を進めた昨秋のJBCクラシック以降、その行く手には厚い壁が立ちはだかるようになった。

途中から先頭に押し出されたジャパンCダートや、スタート直後に躓いたうえ、「気合をつけたら掛かり通しになってしまった」(内田博幸騎手)という川崎記念のように、流れに乗り損ねて敗れたレースもなかには含まれていたけれど、2kg重い斤量を背負っていたヴァーミリアンにねじ伏せられたJBCクラシックや、熾烈な一騎打ちを演じたカネヒキリヴァーミリアンの後塵を拝した東京大賞典の負けっぷりは、客観的に見て明確な力の隔たりを感じさせるものだった。

現時点での勝負付けは済んでいる──。

そう考えたのは何もトレーナーばかりではない。近年のダート界をリードしてきたツートップ(カネヒキリヴァーミリアン)に対抗する勢力の筆頭格と目されてきた近走と異なり、サクセスブロッケンが集める注目は小さなものとなっていた。

他ならぬ私自身、パドックでオッズ板を眺めた時に「ずいぶん人気が落ちているなあ」と思いながらも、「だけどさすがに勝つまでは……」と考えてしまった。しかし勝負付けはまだ済んでいなかったのだ。では完敗と映った近走から、“まさかの”逆転を実現した要因とは何だったのだろうか?

ポイントのひとつは金曜日に降った雨の影響が微妙に残った軽い馬場(発表は稍重)と、そこに刻まれた緩みのないラップだった。大方の予想通りに先手を奪ったエスポワールシチーがけれん味のない逃げを打ち、「瞬発力勝負には持ち込みたくないと思っていた」という安藤勝己騎手カジノドライヴが2番手追走から早めにこれをつかまえに動いたため、レースには終始、緩む場面が生まれなかった。

実際に勝ちタイムは従来の記録を0秒1更新するレコード。パワー勝負ではなく、スピード能力を問われる流れに対応できなかった格好のヴァーミリアンに対し、サクセスブロッケンは3番手で流れに乗った道中から、息の長い末脚を繰り出してみせた。

要は“マイル適性が高かった”ということである。また、カジノドライヴが早めに動いた勝負所でも慌てず、「自分のペースを守って運んだ」という内田博幸騎手の巧騎乗も見逃せない。

そしてもうひとつ、4歳馬ならではの吸収力、成長力が逆転を実現した大きな原動力だった。「古馬を相手に厳しいレースを続けてきたことが、今回の勝利に繋がった」と、内田博幸騎手藤原英昭調教師は声を揃えた。

対してカジノドライヴ安藤勝己騎手「これまで強い相手と戦った経験が少ないぶん、最後のひと押しがきかなかった」と、また、カネヒキリ角居勝彦調教師「力は出し切れました。結果的にはこれだけレベルの高いレースになると、もう少し元気が残っている状態じゃないとキツかったということでしょうね」とそれぞれ敗因を分析。

完敗と映る内容のレースを続けながらも、敗戦を糧に着実に地力を強化してきた“若い力”が、マイル適性の高さにもモノをいわせて戴冠を果たした。彼らのコメントからはそんな実像が浮かび上がる。

もっとも、翌日の紙面に躍るであろう「世代交代」という見立ては早計だと思う。今回とは条件設定が異なる舞台で、サクセスブロッケンが王位を維持できるかはまだ未知数。帝王賞JBCクラシックなど、砂の深い馬場を舞台に争われる中距離戦では、若い力の後塵を拝したカネヒキリヴァーミリアンも巻き返してくるはずだ。

ダート界はツートップの王朝から、新興勢力と既成勢力が入り乱れる戦国時代に突入した──。そんな印象を持った今年のフェブラリーSだった。

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