短距離重賞は『スタートが命』
文/編集部

洗面所に予備の歯磨き粉が置いてあり、歯を磨いていると、その箱に書いてある文字がいつも目に入ってくる。
『歯が命』って文字だ。
「芸能人は歯が命」で一世を風靡した
『アパガード』なのだが、いつも目にしているからか、
阪急杯のゴール直後、それに似た言葉が頭に浮かんでしまった。
「短距離重賞は『スタートが命』だな」と。
今年の
阪急杯はゲートが開くと、まず3頭が飛び出した。
ビービーガルダン、
ローレルゲレイロ、
ドラゴンファングの3頭だ。3頭はスタート直後に他馬に1馬身以上の差を付けていた。
この3頭がハナ争いを演じてガリガリやり合ったり、逆に牽制し合うことでもあれば、結果はまた違ったのだろう。だが、外から
ローレルゲレイロの
藤田騎手が先手を主張したことで、隊列はすんなり決まった。この辺りは、さすがに名ジョッキー揃い(
安藤勝騎手、
藤田騎手、
武豊騎手)という感じだった。
こうして3番手までの隊列が決まった時点で、今年の阪急杯の結末はほとんど決まったと言っていい感じだった。
ローレルゲレイロは優勝した昨年よりも速いペースで飛ばしていたが、
ビービーガルダンの
安藤勝騎手は追いかけ過ぎずに3馬身ほどの差を開けていた。全体的には平均的なペースだったろう。
芝短距離重賞、しかも
開幕週ともなれば、
内ラチ沿いを走る逃げ先行馬が有利なことは明らか。しかも、
ローレルゲレイロと
ビービーガルダンはともに
G1で3着以内に入ったことのある実績上位馬でもある。
地力もあり、馬場も展開も味方に付けた
ビービーガルダンと
ローレルゲレイロなら、後続に3馬身以上の差を付けても、それはそれで驚くべきことではないのだろう。
終わってみれば、
好スタートを決めた3頭が、1400mを走り終わっても上位3着までを独占していた。
ただ、しかし。この
阪急杯は
高松宮記念のプレップレースという側面も持つ。果たして、そうした面では、今回の結末はどう見るべきなのだろうか。
今年の
高松宮記念は
3月29日に行われる。昨年(3月30日)とは1日違いだからほとんど変わりないように感じるが、実は大きな差異がある。昨年は
開催10日目に行われたが、今年は
開催6日目の施行なのだ。
開催が進めば芝コースは
差し馬が優勢になり、
開催10日目の昨年も、
ファイングレインが差し切り勝ちを決めた。逃げた
ローレルゲレイロは
4着だった。
今年は
開催6日目だから、昨年ほど差し馬有利でもないだろう。そう考えるのが普通だが、ここでまた、もうひとつの問題が浮上する。今年の
高松宮記念は
開催6日目ではあるものの、
『2回中京開催の6日目である』ということだ。
今年の
中京開催はすでに1月に行われ(6日間開催)、昨年12月にも開催が施行されたからか、芝コースはけっこうボロボロだった。
今年の
2回中京開催は
3月14日から始まるが、果たして1ヶ月半でどこまで回復しているか。
開催6日目とはいえ、場合によっては、昨年以上に差しが利く馬場になっているかもしれない。
高松宮記念当日がどのような馬場状態で行われているか、それによって、
今年の阪急杯の評価も変わってくるような気がしてならない。
ちなみに昨年は、
阪急杯1着だった
ローレルゲレイロが
4着、
阪急杯2着だった
スズカフェニックスが
3着、
阪急杯5着だった
キンシャサノキセキが
2着などとなっている。
こういうことを書くと、
「ビービーガルダンは阪急杯を勝たない方がむしろ良かったんじゃないか」と思う向きもあるかもしれないが、決してそうではないので、そのことも記しておこう。
00年以降のスプリントG1(高松宮記念&スプリンターズS)は
18レースが行われ、そのうち
初重賞制覇とともにG1も制したのが
4頭いる。4頭というのは他のG1に比べれば多いかもしれないが、04年以降の10レースで見ると、該当馬は
オレハマッテルゼ(
06年高松宮記念)だけ。近年は
重賞勝ち馬でなければ突き抜けられないケースが続いている。昨年の
高松宮記念での
キンシャサノキセキ(2着)がそうで、
ビービーガルダン自身も
昨年のスプリンターズSで
3着だった。
逆に、どのようなタイプがよく勝っているかと言えば、
近走で初重賞制覇を成し遂げた馬だ。
昨年の高松宮記念を勝った
ファイングレインは、前走の
シルクロードSが重賞制覇。昨年のスプリンターズS勝ち馬
スリープレスナイトは2走前の
CBC賞が重賞初制覇。
一昨年の高松宮記念覇者の
スズカフェニックスも2走前の
東京新聞杯が重賞初制覇だった。
このようなデータを見れば、
ビービーガルダンが今回の
阪急杯で重賞を制した意義も高いことが分かるだろう。
昨年のスプリンターズSを終えた後、古馬の芝スプリント重賞は、
スワンS、
京阪杯、
阪神C、
シルクロードS、
阪急杯と5レースが行われているが、いずれの勝ち馬も違うばかりか、
スワンSの
マイネルレーニア以外の4頭の勝ち馬が
重賞初制覇となっている。
高松宮記念へ向けて、続々と重賞で勝ち名乗りを上げる馬が増えているが、果たして本番のG1を先頭でゴールする馬は何か。
昨年の高松宮記念の映像をもう一度見直したら、差し切り勝ちを決めた
ファイングレインも、スタートは他馬と同じか、少し速いぐらいで決めていた(3着だった
スズカフェニックスはスタート直後に躓いていた)。
『短距離重賞はスタートが命』に変わりはないんだろう。それは、
開幕週だろうと、
開催10日目だろうと、
開催6日目だろうと。