来年は『プチ』ではなく、本物に出場しているかもしれない
文/編集部
今年の
ドバイワールドカップ・デイに出走した日本馬は、
バンブーエールが
4着(
ドバイゴールデンシャヒーン)、
ウオッカが
7着(
ドバイデューティフリー)、
カジノドライヴが
8着(
ドバイワールドカップ)だった。
他国の出走馬の顔ぶれを見た時点では、
ゴールデンシャヒーンの
バンブーエールがいちばん厳しい戦いを強いられるかと思ったが、最後に差を詰めて
4着に入り、今回の日本馬の中では最先着を果たした。
実は、今回の
マーチSには、
ドバイに遠征した3頭と同厩舎の馬が出ていたことに気づいていただろうか?
バンブーエールの
安達厩舎は
エスポワールシチー、
カジノドライヴの
藤沢和厩舎は
サトノコクオー、
ウオッカの
角居厩舎は
ボランタス。
ボランタスは少々人気がなかったが、
1~2番人気には
ドバイのダート競走に出走した馬と同厩舎の2頭が推され、
4番人気には、昨年のドバイワールドカップに出走したヴァーミリアンと同じ
石坂厩舎の
アロンダイトとなった。
ダートの一流馬を育てるには何かノウハウがあるんじゃないかと思い、また、
「今回のマーチSは、プチ・ドバイワールドカップだなあ」と思いつつ、レースを見つめた。
戦前、
エスポワールシチーは、
バンブーエール同様、厳しい戦いを強いられるのではないかと思っていた。
マーチSでは距離延長馬が不振であることと、
4歳という年齢が引っ掛かっていたのだ。
マーチSが重賞に昇格されたのは
94年。昨年までに15回行われ、
4歳馬が勝利したのは一度だけしかなかった(99年
タヤスケーポイント)。
4歳馬の成績は通算で
[1.4.4.45]。優勝した
タヤスケーポイントは
ハンデ53kgで、2~3着に入った8頭もハンデは
56kg以下だった。
マーチSはキャリア豊富なベテラン勢がタイトルを持っていくことが多く、
6歳馬が
4勝、
7歳以上も
4勝を挙げている。6歳以上で勝利した8頭のうち5頭が
56.5kg以上のハンデを克服して勝っているのだから、いかに
ダート界の重鎮たちが牛耳りやすいレースかが分かるだろう。
エスポワールシチーは
4歳馬で
ハンデ57.5kg。これだけの斤量を背負うことは初めてで、中山コースも初だったのだから、
さまざまな障壁があったと言える。しかし、これらをあっさり覆して完勝したわけで、このタイトル獲得はかなり価値あるものと考えるべきだろう。
外から追い込むも、もうひとつ弾け切れなかった
サトノコクオーは、
平安S時のエスポワールシチーのような心境かもしれない。古馬のダート重賞を初挑戦で制するのは容易ではないのだろう。
前走の
仁川S、そして今回の
マーチSといずれも惜敗だが、惜しい結果だけに、今後、この経験は活きそうでもある。
今回は、上位3着に入った馬の中ではいちばん外を回っていたし、ペース自体も緩かった。前述したように重賞初挑戦だったし、馬体重も休み明けだった前走(506kg)よりもさらに増えていた(510kg)。次走以降は、これらをどう評価するかが、馬券を買う側には求められてきそうだ。
さて、過去のマーチS優勝馬のその後に目を転じると、同じ
ダート1800m重賞ということもあるのか、優勝馬はそのほとんどが次走で
アンタレスSに向かっている。
ところが、
急坂があって重い中山ダート1800mと、
平坦でスピード重視の京都ダート1800mでは、求められる適性に違いがあるのだろう。98年の
ワイルドブラスターを最後に、連勝馬は途切れてしまっている。
この点、
エスポワールシチーは、
京都ダート1800mの
平安Sで
僅差の2着となっているほどで、平坦コース替わりがマイナスになるとは考えにくい。
アンタレスSでは、今回の
マーチSほどの壁が待ちかまえていることはないだろう。
ただ、しかし、何と言うのだろうか、せっかく久しぶりに誕生した
『4歳のマーチS優勝馬』だけに、
エスポワールシチーにはじゃんじゃん上を目指してほしいとも思う。
もちろん、
アンタレスSを経由して
帝王賞という路線もあるのだろうし、そもそも、もっともっと賞金を稼がなければ
G1(地方交流Jpn1)への出走はおぼつかないのかもしれないが、
あくまでG3レベルは『踏み台』くらいの感覚で通過してほしいと思うのだ。
同世代には、
フェブラリーSを制した
サクセスブロッケンがいて、同2着でドバイに遠征した
カジノドライヴ、
同じ父で地方交流重賞4連勝中の
スマートファルコンがいる。
新しいダートの世界を作り出していくのは、間違いなく
現4歳世代で、
エスポワールシチーはその輪の中心に立てるほどの力を有しているはずだ。
1年後には
『プチ』ではなく、本物の
ドバイワールドカップに出場している可能性もある。今後もベテラン勢を蹴散らして、より高い頂点を目指していってほしいと思う。