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タケミカヅチを待っていたのは、熱湯風呂ではなく栄光のゴールだった
文/編集部

過去10年で1番人気が7勝を挙げている重賞で単勝オッズ1.6倍の馬(ディープスカイ)が敗れ、1番人気が12連敗中の重賞で単勝オッズ6.7倍の1番人気馬(タケミカヅチ)が勝利を収めるのだから、競馬は本当に難しいものだ。

今年のダービー卿CTは、1番人気が連敗中ということが影響したわけでもないのだろうが、1番人気がババ抜きのジョーカー並みに右往左往した。

土曜日(4日)の朝に前日売りが開始された直後はマイネルファルケ1番人気となり、9時過ぎには誰かが大口で買いを入れたのか、マヤノツルギの単勝オッズが26.7倍から1.2倍に一気に上がり、1番人気となった。

その余波は日曜日(5日)の朝まで続いて1番人気マヤノツルギだったが、同馬の単勝オッズはジリジリと値を下げ続け、9時過ぎにはショウワモダン1番人気を明け渡す形になった。

その後、お昼頃になるとレッツゴーキリシマ1番人気となり、13時を過ぎると今度はマイネルスケルツィに。マイネルスケルツィは15時頃まで1番人気になっていたが、出走各馬が馬場入場をする頃になるとタケミカヅチ1番人気を譲り、結局、タケミカヅチデビュー2戦目の新潟2歳S以来となる1番人気に座ることになった。

今回のダービー卿CTは、マイネルファルケマヤノツルギショウワモダンレッツゴーキリシママイネルスケルツィタケミカヅチと、都合6頭が「1番人気」と呼ばれた瞬間があったわけで、これは重賞では異例のことだろう。

いろんな人が手を挙げた後、最後に押されるようにタケミカヅチもそれに加わった形で、これがバラエティ番組ならみんなが手を下げて「どーぞ、どーぞ」となり、熱湯風呂に入れられちゃったりするものだけど(笑)、タケミカヅチ1番人気でもきっちり差し切ったのだからエライ。この勝利で、来年のダービー卿CTの1番人気馬も安心してゲートに入れることだろう。

タケミカヅチの勝因は、スローペースにあったのではないかと思う。

今回は、前走を4コーナー先頭から押し切った馬が3頭(ショウワモダンマヤノツルギマイネルファルケ)いて、他にもレッツゴーキリシママイネルスケルツィマイネルレーニアサイレントプライドなど、先行脚質の馬が多かった。

ところが、フタを開けてみたら、前半の入りが35秒2-46秒8。これは昨年(36秒0-47秒8)ほどではないにしろ、ハンデ戦となってからは2番目に遅いものだった。

同日の6Rに組まれた3歳500万下戦34秒7-46秒3で、逃げたサニーサンデーが2馬身差で押し切っているのだから、古馬G3戦としては明らかにスローだった。

上位3着までに入った馬は2コーナー過ぎまでで5~6番手以内に付けていた馬で、中団から後方に控えた馬たちに出番はやってこなかった。

これまでのタケミカヅチは、芝では後方から差す形が多かったのだが、今回は5~6番手の内に潜り込むことに成功していた。そして、直線ではマヤノライジンの内の空いたスペースに飛び込んでいった。

タケミカヅチは不思議な馬で、スローでも速い流れでも差し脚を繰り出せる。2着となったデイリー杯2歳S共同通信杯は淀みない流れだったし、2着となった皐月賞3着となった弥生賞は、ともに前半1000mが61秒台(61秒8と61秒4)だった。

ペース不問のタイプだが、どうしても前を行く馬を捕らえきれないことが多く、2~3着を量産していた。

今回のダービー卿CTも、ペースがどうであろうと自分の脚は使えるだろうと思われた。問題は突き抜けられるかどうかだったわけだが、スローペースとなり、いつもより前目のポジションを確保できた。

先行脚質の馬たちは一瞬の速い脚を使えないから先行しているわけで、その脚を持っている馬にある程度の位置に来られてしまってはひとたまりもない。

3コーナー5番手以内の馬で上がり34秒7を出したのはタケミカヅチだけ。メンバー中最速の上がりを計時したのはキャプテンベガなどで34秒6だったので、それと0秒1しか違わない脚をあの位置から使えば突き抜けることも可能だったということだろう。

タケミカヅチは初勝利を挙げた時が新潟芝1600mで、2勝目もマイル戦。今後の目標はマイルG1安田記念になるかと思われるが、そこには同日の阪神の重賞で圧倒的1番人気ながら敗れた馬も出走を予定している。

今回で『最強の1勝馬』という称号は返上することになったが、その称号を2年前に持ち、いまやG1馬となったローレルゲレイロ安田記念に参戦してきそうだ。

東京芝1600mのG1となれば、ペースが緩むことも考えにくいが、ペース不問の末脚がどこまで通用するか。人気があってもなくても、タケミカヅチは注目に値する存在と思われるが…。

今年のダービー卿CTは、例年に比べれば配当的に「平穏」だったと言えるかもしれないが、前述したようにスローな流れになり、最後の直線ではゴチャついてスムーズに走れていない馬が多発していた。

「ノーカウント」と言える馬が多そうなだけに、タケミカヅチ以外の馬についても、次走以降は注意を払う必要があるだろう。

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