「女ディープインパクト」の肩書きも相応しいものに思えてくる
文/浅田知広

早くも
「女ディープインパクト」という肩書きつきで語られる
ブエナビスタ。もちろんこれまでのレースぶりからすれば、そこに近づける
「有力候補」なのは疑いようもないところだ。とはいえ、
クラシックのひとつも勝っていない段階で、いくらなんでもディープを引っ張り出すのは早すぎないか、という思いもあったりした。
しかし、そんなことを考えていたのは筆者だけだったようである。
単勝1.2倍の断然人気、というのは想像された範囲内だが、2番人気・
レッドディザイアは大差も大差の
14.4倍。過去10年、G1やJpn1で単勝2番人気が10倍を超えたのはわずか8レースで、そのうち6レースの1番人気が
ディープインパクトだ。
残る2回は
ファインモーションの
秋華賞と、
ピースオブワールドの
阪神JF。
少なくとも、同世代の牝馬同士なら「女ディープインパクト」である、というのが大多数のファンの一致した考えだったと言えるだろう。
こんな流れで馬券妙味はまったくナシとなれば、
「ちょっとケチでもつけてみようか」と考えたくなってくる。たとえば、父
スペシャルウィークは
皐月賞3着、母
ビワハイジが
桜花賞15着、そして半兄・
アドマイヤジャパンと
オーラは
皐月賞で3、4着という血統。
単に
「連に絡まなかった」だけでなく、上位人気で連対を外しているのだから、
クラシック「一冠目」には縁がないのではないか。そう考えると、前走の
チューリップ賞にしても
「あわや」という場面はあっただけに、さらに相手が強化されても果たして
「鉄板」なのか、と思えなくもない。
その一方で
「いやいや逆らっちゃダメでしょ」と語りかけるもう一人の自分。2歳時から
「クラシック最有力」と騒がれる馬には、直感的に
「まだ逆らう余地がある」という馬と、
あっさり白旗を上げたくなる馬がいるもので、この
ブエナビスタは後者のパターン。大変失礼ながら
△などという低評価を下した
阪神JFの直後、
「逆らい続けたら痛い目に遭うぞ」と感じたものだ。
あれこれ考えた結果、出した結論は
「直感」のほうを信じて
ブエナビスタ本命。ただ、その予想をしたのは木曜日。金曜、土曜、そして日曜、3日にわたって
「これでホントに良かったのかなあ」などと、自分の予想に半信半疑の状態でレースを迎えたのだった。
ゲートが開いて1分10秒、
「ほおら、言わんこっちゃない」。
ブエナビスタの前には、
レッドディザイアに
ジェルミナルの2頭が立ちふさがって前が壁。しかも先頭まではかなりの差があり、いくら爆発力のある馬とはいえ、ここから外に出しても苦しいのではないか、という態勢だ。やっぱりこの一族は
「一冠目」はダメなのか。
1分30秒、
「なんだ、コイツは?」。前こそ壁でも外には馬がいなかった、という幸運があったとはいえ、
安藤勝己騎手はまったく慌てた様子もなく、ゆったりと外に出して末脚爆発、ゴールへ向かって一直線。上位5頭はすべて4コーナー10番手以下、見た目の上では
「展開がハマった」ようにも取れるが、
ブエナビスタの上がり3ハロンは
33秒3。決してハマったのではなく、
持ち前の爆発力をフルに発揮しての鮮やかな差し切りだった。
これで
阪神JF、そして
桜花賞と
Jpn1を2勝。今後は
関東への輸送、そして
距離延長など未知な面も残されているが、そんなものは課題にすらならないと思わせるレースを続けている
ブエナビスタ。
自身が力を出し切れば展開も相手も関係ない、そんな印象をファンに与えているという意味では、
「女ディープインパクト」の肩書きも相応しい。実績もその肩書きに追いつくことができるのか、まずは無事に次の舞台へと駒を進めて欲しいものだ。