1番人気で負けた翌週に、5番人気で快勝
文/編集部
現役時代のレース結果が、その産駒が走るようになってから
「合点がいく」ようになることは、競馬の世界では間々ある。
例えば、
スペシャルウィークは現役競走馬時代、
東京と
京都で
G1・4勝を挙げた一方で、
中山では
皐月賞3着、
有馬記念2着、
阪神では
宝塚記念2着と勝てなかった。
その産駒は、
シーザリオが
東京の
オークスを勝ち、今年の
桜花賞では
ブエナビスタが優勝したが、これは
阪神でも
外回りコース。阪神の内回りコースでの重賞は2勝で、牡駒に限ると1勝。
スペシャルウィーク牡馬は中山での重賞が0勝で、広いコースの方が力を発揮しやすいと言える。
このようなデータを見ると、引退レースとなった
99年有馬記念で、
グラスワンダーをハナ差捕らえきれなかった事実も、なんとなく偶然ではなかったような気がしてくる。
ホワイトマズルは、94年、
武豊騎手を背に
キングジョージや
凱旋門賞に挑み、上位人気になりながら敗れた。現地メディアが
武豊騎手に対して痛烈な記事を展開したことで有名だが、15年が経過したいま、その産駒の走りを見ると、あの敗戦も
「合点がいく」ような気がしてくる。
ホワイトマズル産駒は、これまでに中央重賞を15勝しているが、
1番人気では
0勝。15勝すべてを
2~10番人気で記録している。
1番人気では[0.0.1.6]で、2着すらない。先週の
天皇賞・春で、
アサクサキングスが
1番人気で
9着に敗れたのが記憶に新しいところだ。
ホワイトマズル自身の成績を振り返っても、3歳時の
キングジョージ2着は
5番人気だったし、
凱旋門賞2着は
17番人気。それに対して、
93年ジャパンCでは、
2番人気で
レガシーワールドの13着に敗れている。
自身もその産駒も、ポテンシャルはかなり高いことが分かるが、人気を背負って突き抜けることは少ない。
キングジョージや
凱旋門賞での敗戦で、非難の矛先を
武豊騎手に向けたのは、15年経ったいまから見れば、
ちょっと違うんじゃないか、という気がしてきませんか?
アサクサキングスが
天皇賞・春を
1番人気で敗れた翌週、
新潟大賞典を
シンゲンが
5番人気で快勝したのを見たら、
なんかホワイトマズルらしいなと思わずにはいられなかった。
道中を内ラチ沿いで溜め、直線に入ってジワッと進出した
シンゲンは、直線半ばでの手応えが他馬と違い過ぎた。コースロスなく走ったこともあるのだろうが、それ以上に状態の良さが伝わってくる走りだった。
シンゲンは今年6歳だが、体質的に弱い面があったようでキャリアはまだ
13戦。しかし、振り返ってみると、その少ないキャリアの中でも、なかなか名前のある馬たちを撃破してきていた。
初勝利時は、
現1600万の
ビッグベアシチーとともに走り、これを撃破。500万を勝った時は、
今年の中山牝馬Sで3着に入った
ダンスオールナイトを下している。
1000万特別1勝目では、後に
新潟記念で2着になる
トウショウヴォイスを破り、1600万特別を勝った時は、後に
東京新聞杯を勝つ
アブソリュートと
阪神牝馬S2着の
ザレマを抑えている。
条件戦での勝利時に、これだけ後の活躍馬が含まれている馬も珍しいのではないか。
ホワイトマズル産駒による中央重賞制覇は、これまでの14勝はすべて
中7週以内だった。
中8週、つまり約2ヶ月以上開くと勝てず、その成績は
[0.1.3.20]。今回、
3ヶ月ぶりだった
シンゲンは、このデータを覆したことになる。
アサクサキングスや
スマイルトゥモロー、
ビハインドザマスクなど、上級のホワイトマズル産駒でも勝てなかった条件でタイトルを手にしたのだから、
シンゲンの今回の勝利は非常に価値あるものと言えるだろう。
シンゲンはこれまでの7勝のうち、5勝を
1~2番人気で挙げている。
1番人気では[3.0.0.1]。今後、
重賞で
1番人気に推された時、どんなパフォーマンスを見せるかが楽しみだ。
シャドウゲイトが
07年のシンガポール航空国際Cを勝った時が
1番人気だったが、
中央重賞を1番人気で勝てば、ホワイトマズル産駒としては初となる。
勝ったら、
94年のキングジョージや凱旋門賞の敗因は何だったんだ?と蒸し返す人も出てくるかもしれないが、そんな昔の小さなことよりも、きっと父・
ホワイトマズルは喜ぶに違いないぞ。