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この快勝を「恵まれた」のひと言で片付けるのは早計
文/浅田知広

有力馬は差し馬ばかり。さて狙いは? もちろん距離やコース、メンバー構成にもよるだろうが、昔なら「先行馬」が正解になることが多かった。ところが、10年少々前あたりからは「瞬発力のある馬」中心になり、また最近は「先行馬」に戻りつつあるような印象がある。

加えてこのNHKマイルCは、13番人気2着グラスエイコウオー9番人気1着ウインクリューガー、そして10番人気2着デアリングハートなど、人気薄の先行馬がたびたび波乱を演出。一昨年、17番人気で差し切ったピンクカメオの印象も強いものの、今年のこのメンバーなら「穴は先行馬」と考えた方も多かったに違いない。

とはいえ。その「先行馬」展開に恵まれれば勝てる馬がいるのか、展開に恵まれても勝てない馬ばかりなのか、というのも頭を悩ませるところ。ブレイクランアウトアイアンルックで一応は「2強ムード」になっていた一方で、それぞれ3.3倍3.7倍という微妙な単勝オッズに、そんなファン心理が現れていたようにも思える。

さて、実際にゲートが開いてみると、内からゲットフルマークスが軽快なスピードを見せ、2番手にジョーカプチーノと続いて前はばらけ気味。画面に表示された600m通過の参考タイムは34秒3、その後も11秒2-11秒7とペースは落ちずに800m45秒5、1000m57秒2のラップ。600mこそ例年並みだが、その後の2ハロンは少々速いか、という流れになった。

しかし、これは逃げたゲットフルマークスの計時で、2番手につけたジョーカプチーノには「先行馬がたびたび波乱を演出」するレースとしては十分にチャンスのあるペース。加えて3番手以下が大きく離れた「貯金」つき。さらに、折り合いもきっちりついたとなれば、これは「勝ってください」と言わんばかりの展開だ。

直線に向いても追い出しを我慢する余裕を見せ、上がり2ハロンは11秒7-12秒0。思わず「鮮やかな逃げ切り」と書きそうになったが、前も後ろも離れた道中2番手。いわゆる「ハナを切っているのと同じ」競馬で、実質「鮮やかな逃げ切り」に近い競馬だったと言えるだろう。正解は「前」、そして「展開に恵まれれば勝てる馬がいる」という一戦だった。

ただ、この快勝を「恵まれた」のひと言で片付けるのは早計だ。勝ち時計1分32秒4は、04年に5馬身差で圧勝したキングカメハメハを0秒1秒上回るNHKマイルCレコードなのだから、いくら良好な馬場状態とはいえ、これは立派なもの。

今回は「展開に恵まれれば勝てる馬」が恵まれた、という面も確かにあった。しかし、この時計で走れる馬が他にいなかった、とも言える結果。実はこのジョーカプチーノ「展開に恵まれなくても勝てる馬」だった可能性も十分にある。

そのジョーカプチーノを、前や後続の動きに惑わされず、自分の競馬でしっかり勝利に導いたのは、デビュー3年目の藤岡康太騎手。昨年のこの時期は落馬負傷で戦線を離脱していたが、1年後に見事なG1初制覇を達成。

さらに、管理する中竹和也調教師父マンハッタンカフェなど、関係する人も馬も「G1初制覇」だらけ。何から何まで新鮮な、そして皆さん喜びの大きな勝利だったに違いない。

この藤岡康太騎手「そういえば関東(の表開催)で勝ったことあったのかなあ」と思って調べると、なんと前日まで中山東京とも勝利どころか騎乗経験すら皆無だった。この日の1レースが初騎乗、9Rのスピードタッチが初勝利、そして一気のG1制覇という芸当である。

「きっかけ」さえあれば一気に伸びるのがデビュー数年の若手騎手。馬はもちろん、藤岡康太騎手の今後の手綱捌きにも大いに注目したい。

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