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“孤高”のダート重賞の名に相応しいレース内容だった
文/編集部

“孤高の存在”というのは、他に類を見ない存在、ひとり気高い存在、といった意味である。プロ野球界でいえばイチローサッカー界ではペレF1界ではセナ漫才界ではエンタツ・アチャコ牛丼界で言えば吉野家といったところだろうか。競走馬ならばディープインパクトあたりはピタリと当てはまるイメージだ。

さて、気高いという意味ではちょっと違うかもしれないが、そんな雰囲気が漂う独特の存在感を示すレースが中央競馬のレースプログラムにも存在する。

例えば、ステイヤーズSG2別定戦の最長距離の重賞レースであるこのレースは、直近の有馬記念へのステップレースとしての役割を果たしているとは言えず、約5ヶ月後の春の天皇賞への関連性も薄い(例外もあるが)。

しかし、G1レベルにはちょっと足らず、活躍の場が限られているスタミナ自慢のステイヤーたちにとっては最高の舞台でもある。長い攻防の中では、何度も各馬の位置取りが変わったり、騎手の仕掛けどころがモノを言う場面もあったりと、長距離レースの醍醐味を存分に味わえるレースなのだ。

そして、この東海S

中央場所では唯一のダートG2戦であり、ダートの重賞レースとしては最長の距離。さらに、舞台は中京競馬場の小回りコースで、コーナーを6回も回るというもの。

施行時期としては6月下旬に行なわれる大井のG1・帝王賞までは丁度良いローテーションではあるのだが、現実的には前記のような特殊な条件を嫌ってか、交流重賞の中でも最高レベルにある帝王賞で勝ち負けをするようなG1級の馬たちの出走は少ない。

しかし、スタミナ寄りのダート馬にとっては願ってもない条件であるし、小回りコースで繰り広げられる長い道中の攻防も見応えがある、なんとも独特の存在感を示すレースなのである。

そして、そういった独自性が示すとおり、過去5年間の結果を見ると、どうにも一筋縄では収まらないレースでもある。1番人気馬は5年連続で連対を外し、昨年は3連単513万円馬券の大波乱だった。

なぜこんなことを長々と書いてしまったかというと、今年1番人気に推されたこのレース最大の注目馬ウォータクティクスにとっては、こういった特殊条件がマイナスになってしまうのではないかと思われたからだ。

ウォータクティクスのこれまでの連勝パターンを見てみると、スピードを活かして先行し、そのまま押し切ってしまうことが多い。日本レコードを記録した前走のアンタレスSでは、3ハロン目から最後のひとハロンまでをすべてハロン11秒7から12秒5までの間でまとめている。緩急のメリハリがつきやすい中京ダ2300mでは、これまでの勝ちパターンをそのまま持ち込むのは難しい。

加えて、短い直線を意識して、中団より後ろを進む馬たちも早めに仕掛け、マクリ差しに出る公算が高い。そうなると、目標にされる先行馬にとっては厳しい展開となる。また、『メインレースの考え方』でも書かれていたように、このレースは終いに斬れる馬が強いのも特徴的である。

もちろん、05年のサカラートのように、自分のペースを作って逃げ切ってしまうシーンも十分に考えられたのだが……。果たしてウォータクティクス&川田騎手はどんなレースぶりを見せるのか。そんなことを考えながらレースのスタートを待った。

好スタートを決めたウォータクティクスは意外にもいつものように先手を取らず、6、7番手に待機。1周目の3、4コーナーを過ぎてレースを引っ張っていたのは、こちらも意外にもアドマイヤスワットだった。

レースが動いたのは1周目のゴール板前から。中団でピサノエミレーツが外からウォータクティクスに並びかけると、2頭が連れて先団へ。一瞬、ウォータクティクスピサノエミレーツに釣られるように前に行ったように見えたが、川田騎手の手綱を見ると、これは意図的のように思えた。

1周目のゴール板を過ぎたあたりでウォータクティクスが先頭へ立つ。中京競馬場のダートコースは1周が約1400m前半を捨てこの時点で先頭に立ち、残りを持ち前のスピードで押し切ってしまおうという川田騎手の意図が見て取れるようだった。

しかし、このまますんなり行かないのがこのレース。1、2コーナーで外から8枠の2頭マコトスパルビエロアロンダイトが上がって行き、一気に先行勢を交わし去った。2頭はやや掛かり気味にも見えたが、アロンダイトの鞍上の和田騎手は、腹を括ったかのようにマコトスパルビエロを抑えるようにしてハナを主張。そのままレースを引っ張る展開となった。

ウォータクティクスは予想外の展開に馬群の内で揉まれる展開に。3コーナーの手前で、それまでレースの展開を静観するように自分のポジションを守っていた2番人気ワンダースピードが仕掛けて上がって行き、これに交わされたウォータクティクスは早々と手応えが怪しくなり、そのままズルズルと後退してしまった。

レースは3コーナーで全馬が一気に仕掛けるという、小回りコースでこそ見られる死力を尽くした激しい追い比べに。直線で抜け出したのはアロンダイト。早めに先頭に立ち、スタミナにものを言わせ、そのままゴールまでなだれ込む勢い。そしてこれを目標に脚を伸ばしてきたのがワンダースピードだった。

最後はアロンダイトを交わしたワンダースピード1馬身1/4差をつけてゴール。3着には出走メンバー中最速の上がりを使ったボランタス2、3、4番人気の順でゴールするという、このレースとしては比較的、順当な結果となったが、レースの内容は出入りが激しい荒々しくも白熱したものであった。

和田騎手が最後は一杯になるのを覚悟で早めに先頭に立ったというアロンダイト。直線で先頭に立った後にソラを使ったようで、ワンダースピードに来られてからはもう一度脚を使い、ボランタスの追撃を凌いで2着を死守した。復帰4戦目で06年のジャパンCダートの勝ち馬らしい力を見せてくれたのだった。

そして、勝ったワンダースピードは同期のカネヒキリヴァーミリアンの影に隠れる存在であったが、長い距離のダート戦では安定した力を発揮してきた馬。展開がめまぐるしく変わったこのレースでも自分の競馬に徹することで、最後の直線できっちりとした末脚を使うことができた。

7歳&6歳馬の2頭のベテランホースで決まった今回の東海Sはまさに、他のレースではなかなか見られない、“孤高”のダート重賞の名に相応しいものではなかっただろうか。

一方、ウォータクティクス最下位に敗れてしまったが、この結果で評価を極端に落とす必要はないだろう。今回は前回のアンタレスSで負かしたワンダースピードアロンダイトのリベンジに遭ったというよりも、このレースの特殊性の前に敗れてしまった気がする。今回はノーカウント扱いでもいいと思うし、今後、ダート界でトップグループの活躍が期待できる逸材であることに変わりはない。

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