シンゲンは「エプソムC勝ち」の評価をどう転がすか
文/編集部
障害戦を含め、今年、JRAのG2・G3(Jpn2・Jpn3)は、
全109戦が用意されている。各路線において、G1(Jpn1)はすべからく最終目標であるのに対し、それ以外の重賞はそうとは言えない。かといって、すべてのG2・G3がG1に向けてのステップかというと、そうでもない。G1にはちょっと手が届きそうにない馬たちにとって、
キャリアの中で実質的ゴールとなる重賞も多数存在する。
そんな分類上、
エプソムCというレースは
ど真ん中に中庸なレースだ。
芝の中距離重賞だが、目前の
宝塚記念までは間隔が短すぎるし、ゴールとなりがちなローカル重賞でもない。96年の勝ち馬
マーベラスサンデー、07年の勝ち馬
エイシンデピュティはこのレースを経てG1馬となったが、なったのは、それぞれ翌年(97年と08年)のことで、直結したわけでもない。
過去10年を対象に詳しくデータを調べてみると、勝ち馬は計8頭。これは
99&00年に
アメリカンボス、
03&04年に
マイネルアムンゼンによる連覇があったためだ。その8頭のうち、重賞2勝以上を挙げた馬は7頭。つまり傾向としてこのレースは、
ゴールでもなく重要なステップでもなく、実績を重ねながらもG1馬になれなかった馬たちの通過地点になるケースが多いと言える。
さて、それを踏まえての、
09年エプソムC勝ち馬となった
シンゲンだ。
妻夫木聡主演の大河ドラマ
『天地人』などで、女性の間でも広がっている戦国時代ブームとも微妙にリンクしてか、
「甲斐駒特別を制したシンゲンが上杉謙信の本拠地・新潟の大賞典を制した」ということで、前走後に話題を呼んだ。今回のエプソムC勝ちで、
それに続く重賞2連勝、白富士Sからの3連勝が達成された。
レース前のパドックでは、周回を重ねるにつれ、ややイレ込みが見られた
シンゲン。ただ、レース後の
藤田騎手のインタビューでは
「いつもよりおとなしいぐらいだった」とのこと。直前では
2番人気となり、レースでは他馬と揃ったスタートを見せたあと、馬群の真ん中にデンと位置取り、先団を進む1番人気
ヒカルオオゾラの動きを睨む展開に。
4コーナーから直線、
武豊騎手と
ヒカルオオゾラは、馬場のいいところを選びながら早め先頭で外に回す。それを後方からなおも睨みつつ、
藤田騎手と
シンゲンは残り400mのあたりでのエンジン始動。
ヒカルオオゾラの鞍上・
武豊騎手はこれに対抗するかのように、残り200mまで溜めに溜めた上でステッキを抜いたが、
シンゲンの上がり3F34秒2という末脚に大外から飲まれて及ばなかった。
これで前述の
「重賞2勝目以上でG1未勝利」という、過去のエプソムC勝ち馬と似た戦績になったわけだが、
シンゲンの場合、連勝の勢いとレース内容から、
「これがこの馬のゴール」とは考えにくい。むしろその強さは、同じ3連勝でこのレースを制し、後にG1馬となった
マーベラスサンデー、
エイシンデピュティらを彷彿とさせる。
3連勝でエプソムCを制した馬には、前述のG1勝ち馬2頭のほかに、89年の
ニホンピロブレイブ、95年の
カネツクロス、03年
マイネルアムンゼンという馬の例もある(4連勝以上の例はなし)。G1を獲れなかった馬も含まれていて、特に
父タマモクロスの再来と言われた
カネツクロスの、エプソムC当時の勢いを記憶している者としては、ポジティヴな心象が消し飛びそうな側面があるのも事実だが、
シンゲンに関しては、
東京コースがこれで8戦6勝、敗れた2戦は故障があったようで、実績はほぼパーフェクトと言える。
甲斐、
越後の次は
「関東(エプソムC)から本丸(天皇賞・秋)」という陣営のプランどおりに東京コースで実績を重ねた成果も大だろう。
ちなみに、07年のエプソムC勝ち馬
エイシンデピュティが
08年の宝塚記念を制したのに続き、08年勝ち馬
サンライズマックスの陣営は、
今年09年の宝塚記念への出走表明を行なっている(春天4着後)。
G1勝ちに直結するでも、キャリアの実質的ゴールでもない、勝ってその直後の評価に困るこのレースだったが、今後
シンゲンらの活躍によっては一気に
出世レースとして変貌するかもしれない。これから2週間は、
サンライズマックスの動向にもなんとなく注意しておきたいものだ。