「夏は牝馬」の格言を超えて強い! 夏の直線競馬は牝馬天国
文/編集部
夏は牝馬。かつて私が所属していた編集部では、ある冬の号で
「こたつでみかん」という表現があまりにも多用されたため、原稿をチェックしていた編集長が激昂して
「こたつでみかん」禁止令を発令したことがあった。競馬界の定型句
「夏は牝馬」には、それに似た抵抗を感じなくもないが、この
アイビスSDというレースを語る上では、どうしても避けては通れない。
05年の
テイエムチュラサン以降、08年、そして今年09年と、
カノヤザクラが連覇して、牝馬が計5連勝。9回を数えた歴史の中で、未だ牡馬でこのレースを制したのは
02、04年の勝ち馬で、のちにG1馬となった
カルストンライトオただ1頭しかいない。
逆にこのデータからは、来年以降に牡馬の勝ち馬が出た際、また、今年このレース2頭目の2勝馬となった
カノヤザクラについては、今後のG1戦線での好走を留意すべきだろう。ちなみに01年の勝ち馬
メジロダーリング、07年の
サンアディユも
その後のスプリンターズSで2着という良績もある。
カルストンライトオといえば、その主戦だった
大西直宏騎手は、新潟芝1000mの直線競馬が始まった01年、その最初の3歳未勝利戦で記念すべき勝利ジョッキーとなったことでも競馬史にその名を残した。しかしそんな
大西騎手も、すでに引退。
当初は、多くの競馬ファンが初めて目の当たりにする存在だった日本における直線競馬も、今年
アイビスSDが行なわれた
7月19日までに早
220戦を数え、来年は
10年目を迎える。そしてそんな220戦中、性別による勝ち数は、
牡馬76勝(34.5%)に対し、
牝馬144勝(65.5%)と、歴史は牝馬の優位性を明確に示している。
夏、牝馬が強い理由には、
生物全般の傾向としてメスのほうが環境の変化に対応力があるからなど、様々な説があるものの、明確な結論付けはされていない。馬券派にとっては
「夏は牝馬」という格言さえ頭にあればいいのかもしれないが、勝ち数を
7~9月開催に限定すると、先の数字は
牡馬44勝(31.4%)、
牝馬98勝(68.6%)と、さらに牝馬側に天秤が傾く。
今回連覇を達成した牝馬
カノヤザクラの場合は、昨年の良馬場開催に対し、今年は雨こそ上がったものの
馬場は重で、
芝は去年よりも2㎝長め。しかも
強い向かい風のあるコンディションと、勝った条件は大きく異なっていた。同じだったのは、内枠は馬場が荒れるため外枠が有利なこのコースにおいて、昨年は
大外枠、今年は
17番枠に入り、
道中で大外を確保できたという枠の利ぐらいか。
スタートでやや後手を踏んだ18番
アポロドルチェの大外を奪った
カノヤザクラは、昨年とは違って前半から積極的に前へ。前半3F通過が33秒1と、同じく重馬場だった07年も含め、このレースとしては初めて33秒台で前半が流れた中、400m付近から抜けにかかった
カノヤザクラは、自身の上がり3Fを
34秒0にまとめてゴールした。
昨年とは異なる内容を示して勝ったことは、強さの証明だろう。ただ、それが
「夏は牝馬」という格言の強烈な後押しを受けての強さか否かは、秋まで再度、結論を保留する必要がありそうだ。個人的には先に挙げた、
アイビスSDで2勝したカルストンライトオが、その後スプリンターズSを制したという経過を、単一のデータながら強調しておきたい。
片や、昨年は不利な1枠1番で3着に突っ込んだ
アポロドルチェは、今年は外枠に恵まれ、
またも最速の上がりで差を詰めたものの2着と、勝ちにまで届かず。ただ、牝馬圧倒的有利な条件下での再度好走は立派だ。この馬は実成績だけでなく、血統的にも字面的にも夏に勢いを得る馬。父
オフィサーは
カルストンライトオと同じ、
マイナー系統インテント系で、母は
サマースコール産駒の
サマータイムヴァルである。