日本にも誕生した「真夏のダービー」でアメリカ型3歳ダート路線完成
文/編集部
面白いレースが新設されたものである。
真夏のローカルに、
3歳限定、
ダートの重賞。昨秋このレースの新設が発表された時、個人的には、
ジャパンダートダービー(以下JDD)出走後休養中の一線級を睨みつつ、夏の上がり馬と春の二線級がもう一段上を目指して戦うような図式を想像していた。
しかし、ふたを開けてみればすでに、メンバー構成自体がその想像の一段上。
今夏最強と目される上がり馬を、JDD上位6着内の4頭が迎え撃つ、3歳頂上戦に近いレースとなった。
JDD覇者
テスタマッタの出走は実現しなかったが、夏にこのレパードS新設という絶妙な一手が打たれ、現実に好メンバーが集結したことで、日本の3歳ダート路線は
アメリカの3歳ダート路線とほぼ同型化したように思う。
アメリカの3歳路線は5月頭に行なわれる
ケンタッキーダービーを始めに、5月半ばの
プリークネスS、6月初旬の
ベルモントSというG1が連続してこなされ、一気に三冠が終了。その後ひと息入って
「真夏のダービー」の異名で知られる、8月の
トラヴァーズS、あるいは同月の
ハスケル招待Hに春の上位勢と上がり馬たちが集結し、いわば第4冠目となるG1タイトルの争奪戦へと続く。その後は、秋の
ブリーダーズCに向け、3歳及び古馬上位勢との対戦が始まる。
日本の場合はアメリカのように、約1ヵ月強というごく短期間に三冠が消化されるようなことはない。しかし、4~5月に
南関東なら
羽田盃、
中央なら3歳オープンの
伏竜S・
端午Sといった、各地方の第一冠、あるいは大きめの前哨戦が行なわれ、6月上旬にダービーウィークとして、
各地方のダービーや中央の
ユニコーンSが、そして7月には
JDDが行なわれる。重要な局面が3つ連続して来る点は同じで、そして夏にこの
日本版トラヴァーズS、
レパードSがお目見えしたいうわけだ。
さて、その初代王者を巡っては、
前走同コースでレコード勝ちの
トランセンド、
ユニコーンS勝ち馬でJDD2着の
シルクメビウスに加え、
2歳ダート王スーニ、あるいは
ユニコーンS2着でJDD4着の
グロリアスノアと、各新聞紙上では3強ないし4強と見られる印の打ち方が散見されたが、思いのほか
トランセンドに人気が集中。前日売りから単勝1倍台に推され、日曜にはいったん2倍台となったが、最終的には
1.7倍、これに
シルクメビウスが
4.3倍、
スーニが
8.9倍と続いた。
4、5番人気には
アドバンスウェイと
グロリアスノアが同じ
15.0倍のオッズで並んだが、票数の微差で前者が上位人気。ダート戦ということで、前に行ける1枠1番の逃げ馬が支持されたのは頷けるところ。
結果、
アドバンスウェイは大方の予想どおり逃げ、4着に粘り込んだ。一方、
グロリアスノアは中団の位置取りから、
シルクメビウスの走行妨害もあって伸びず9着。その
シルクメビウスは後方10番手からマクリ気味に動いて5位入線したものの、10着に降着となった。
下位から先に着順を紹介してしまったが、やはり先行勢有利の流れで、1着は前走同様2番手追走の競馬で押し切った
トランセンド。勝ちタイム
1分49秒5は、
前走麒麟山特別とピッタリ同じレコードタイの記録。
前走は稍重で時計が出やすい馬場だったが、今回は乾いたダートで、4コーナーすぎでは鞍上・
松岡騎手が後ろを振り返り、追撃がないことを確認した上でのこの時計。
北京五輪男子100m決勝のボルトか、というツッコミは、現在毎夜、世界陸上を見すぎのせいか。
最初の2ハロン目では
11秒1のラップが計測されたものの、
麒麟山特別ほど激しい先行争いは起きなかった今回のレース。それでも道中は
12秒前半が並ぶ厳しい展開となったが、そんな流れの中、最後は余裕残しで3馬身突き放した
トランセンドの能力は、もはや疑うところがないだろう。
これで
ダートでは4戦4勝、つけた着差の合計は
3秒3。すべて
1800mで勝ち星を挙げており、阪神のダートで勝ち上がっていることから、
秋のJCダートに向けても視界は良好だろう。
同世代にはJDDで一躍浮上した
テスタマッタのほか、今回感冒による出走取消となった3連勝中の
フサイチセブン、同じく3連勝中の
エーシンモアオバー、1歳年上には5連勝で前走マリーンSをレコード勝ちした
マチカネニホンバレなど、7月以降、中央のダート路線には面白いタレントが急増中。
これに既存勢力の
ヴァーミリアン、
サクセスブロッケンなどが挑戦を受ける。芝路線や国外の凱旋門賞以上に、この秋はダート戦線が盛り上がるかもしれない。