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中山ならここから仕掛けても押し切れる、という確信があったのだろう
文/編集部

レースが終わった瞬間、頭に浮かんだことは「ペースが遅かったんだろうな」ということだった。というのも、勝ったナカヤマフェスタの鞍上・蛯名騎手の手が予想以上に早く動いていたからだ。

それは残り800mを通過したあたりで、3コーナーに入ってすぐの地点。出走馬18頭の中で、蛯名騎手の手が最初に動いているように見えたほどだ。

実際のところ、今年の前半1000mの通過タイムは60秒9。雨で稍重だった昨年が61秒2で、07年が59秒1、06年が60秒2、05年が60秒1なのだから、良馬場にしては遅い。先頭を行くブレイクナインヒカルマイステージの2頭が3番手以下を離していたので、3番手以下はかなりのスローだったとも言える。

以前、マツリダゴッホについて蛯名騎手に話を聞いた時、「府中だと3コーナーから仕掛けたら確実に止まってしまうけれど、中山ならそれが可能だ」と話していた。やはり「中山ならここから仕掛けても押し切れる」という確信があったからこそ、他の馬に先んじて仕掛けたのだろう。

こういうレースは中山で数多く乗っている騎手だからこそできる芸当だ。実際、このレースにおける過去10年の連対馬の鞍上を見ても、関東所属騎手16人で、関西2人地方外国人1人ずつと、関東騎手が圧倒的だ。

また、蛯名騎手は昨年時に中山で37勝を挙げており、これは内田騎手42勝に次いで2位。トータルで内田騎手123勝蛯名騎手83勝だったことを考えると、いかに蛯名騎手が中山を得意にしているかが分かる。

今回のセントライト記念で見せた早めに先頭に立って押し切るレースぶりは、「中山マイスター」と呼ばれたマツリダゴッホに通じるものがあった。ナカヤマフェスタ自身は東京で2勝を挙げているのだから場所を問わず好走できるタイプなのかもしれないが、この馬が蛯名騎手で暮れのグランプリに出てきた時には、忘れずに今回のレースぶりを思い出したいものだ。

2着にはセイクリッドバレー、3着にはフォゲッタブルと、菊花賞への優先出走権を得られる着順には、夏の時期に古馬と戦ってきた馬たちが入った。

セイクリッドバレー1000万下信濃川特別を制してここに駒を進め、フォゲッタブルは勝ち馬に5馬身ちぎられたものの阿賀野川特別2着に入り、ここに参戦してきていた。

阿賀野川特別は、昨年の菊花賞を制したオウケンブルースリが優勝したレースでもあり、今年の1着馬は菊花賞3着ナムラクレセント。現在の有力馬には3000mに対して「?」がつく馬が多いだけに、特にダンスインザダーク産駒で母エアグルーヴフォゲッタブルには本番での逆転も期待できそうだ。

1番人気で4着に敗れたアドマイヤメジャーは、スタートでアオって行き場をなくしたように見えた。結果的に後方からの競馬になって包まれたことが災いしたようだが、この馬は前走で1000万下を勝っており、例年通りなら菊花賞出走は可能のはず。

今回のレースでも上がり3Fはメンバー中最速(34秒8)だったし、最後に前を行く馬を追い詰めた脚には見どころがあった。本番での巻き返しも期待できるだろう。

と、ここまで何度も「期待」という言葉を使ったのは、ご存知の通り、セントライト記念組が本番で苦戦傾向にあるからでもある。予想というのは、そのプロセスの中で複雑に絡み合う数多くの要素を取捨選択しながら考えるのが楽しいのであって、菊花賞の予想をする時に「セントライト記念組は消し」であっさり終わってしまっては、その楽しみが減ってしまう。

95年にこのレースが菊花賞トライアルに指定されて以降、このレースと本番を連勝した馬は皆無。トライアル指定以前を含めても、84年のシンボリルドルフまで遡らないといけない。また、セントライト記念出走馬の菊花賞優勝は、01年マンハッタンカフェ(セントライト記念4着)、89年レオダーバン(同3着)がいる程度。

中山、京都という、それぞれまったく性格の違うコースで連勝できる馬は、相当強い証だと思うのだが……。そういう馬を久しぶりに見てみたいと、こちらも「期待」して、10月25日を待ちたい。

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