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ムードインディゴの勝利は、流れが向いただけではない
文/編集部

最近、マンガ(劇画)の『鬼平犯科帳』にハマっている。江戸時代の東京の様子がさいとう・たかを先生の緻密な線画によって再現されていて、当時の生活感がテレビや映画などよりも実感しやすいのだ。もちろん話自体も面白いんですけどね。

その『鬼平犯科帳』の中で、しばしば長谷川平蔵(鬼平)「女にはかなわない」的な発言をする。特に妻の久栄に対して「頭が上がらない」ような場面がよく出てくるのだが、さすがにこれは本当なんだろうか?と思ってしまう。現代風にアレンジした結果なのかなあと勘ぐってしまうのだが……実際に江戸時代の頃はすでに、女性は男性よりも強かったんでしょうか?

今週末は秋華賞府中牝馬Sという牝馬の重賞が2レース行われたが、見終わっての最初の感想としては、やっぱり女性にはかなわないなあというものだった。

なんと書くのが適切なのか頭に浮かばないが、とにかく、レースを見終わった後では、鬼平が女性に頭が上がらなかった可能性も「大いにあり」との境地に達していた。それくらい、女性の強さ女の意地みたいなものをかいま見た気がした。

今年の府中牝馬Sは、前半の1000m通過が58秒1というハイペースになった。スローで流れやすいこのレースにとっては珍しいことで、有力馬が3~4コーナーにかけて、前へ前へと押し寄せた結果だろう。

かつてこんなに速いペースはあったのだろうかと思い、調べてみたところ、もっと速い流れの年が見つかった。

それは03年で、この時はなんと前半1000mを56秒3で通過している。前半3Fが33秒2で、これは同年のスプリンターズS(33秒3)よりも速い。スマイルトゥモローが後続を離して逃げる形になったからだが、もう少しうがった見方をすれば、オークス馬が2頭もいたからじゃないかという気もしてくる。

この年は、前年のオークス馬のスマイルトゥモローの他に、2年前の同レース覇者のレディパステルも出走していた。さらには、オークスレディパステルと同タイムの2着になっていたローズバドも参戦していて、なんと言うのだろう、「府中でいちばん強いのは誰か、決着付けましょうよ」的な、ちょっとおっかない雰囲気だったのだ。

一方、今年はどうだったかと言うと、ご存じの通り、おっかないのを通り越して、背筋がちょっと寒くなるような豪華メンバーだった。

オークス馬は、カワカミプリンセストールポピーが出走し、同2着ではベッラレイアエフティマイアも参戦。さらには、エリザベス女王杯馬リトルアマポーラ桜花賞馬レジネッタもいて、他にG1での連対歴がある馬では、ブラボーデイジームードインディゴもいた。

もちろん走っているのは牝馬だが、乗っているジョッキーはすべて男性。だから、本当に「女の意地がぶつかりあった」のかどうかは定かではないけれど、レースを見る限り、まさにそのような激しい肉弾戦となった。

ヴィクトリアマイルで2着となったブラボーデイジーが2番手に付け、その外からカワカミプリンセスリトルアマポーラが迫り、4コーナーではニシノブルームーントールポピーも押し上げて、直線入口では、さながらバーゲンセールの開店直後のような混雑ぶりだった。

しかし、府中の直線は長い。さすがに先に仕掛けられた馬たちは続々と脱落していき、直線半ばでは、馬群の前と後ろがそっくり入れ替わるような結果となった。

優勝したムードインディゴは序盤を最後方に控え、一緒に後方を追走していたベッラレイアが4コーナーで大外を回されたのに対して、ムードインディゴ田中勝騎手は馬群の隙間を突っ込んで直線に向き、突き抜けた。

この辺りは、人気の有無の差があったのだろう。ベッラレイア3番人気で不利を受けない競馬を見せたが、ムードインディゴ7番人気の気楽さも手伝ったか、ある部分で賭けのレース運びを見せ、それに勝った感じだった。

ムードインディゴは流れが向いての勝利であることに間違いはないのだろう。ただ、見過ごしてはならないのは、その上がりタイム。ムードインディゴ33秒7の脚で突き抜けており、これは自己ベストなのだ。

これまでの最速上がり3Fは、デビュー戦(中京芝1800m)で記録した34秒1。昨年の秋華賞2着時でも34秒4で、33秒台を記録したことはなかった。

仮りに、ムードインディゴの上がり3Fが過去ベストの34秒1だったとしたら、走破タイムは0秒4下がるわけで、0秒3差だったベッラレイアに逆転を許していたことになる。

もちろんこれは机上の計算に過ぎないが、ムードインディゴがあれだけ他馬に差を付けた背景には、決して流れが向いただけではない、地力アップがあったことは見逃してはならないだろう。

府中牝馬Sを制したムードインディゴは、馬体重が前走比12kg減(450kg)で、秋華賞を勝ったレッドディザイア14kg減(480kg)だった。結果的に両レースとも、体を絞り、渾身の仕上げで臨んできた馬が勝利を収める格好となった。ここにも「意地」が見える気がする、と書いたら、ちょっと言い過ぎですかね(笑)。

順調にいけば、府中牝馬S秋華賞を戦ったメンバーが、11月15日エリザベス女王杯に集結する。いったいG1勝ち馬は何頭集まるのだろう。激しさはさらに増しそうな雰囲気で、こりゃあ、観る方も正座して襟を正さないと怒られそうですね。

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