競馬の祭典ダービーを取り巻く関係者の顔と声
文/村本浩平
ダービーのパドックで選ばれた18頭を目で追っていたところ、ノーザンファームの横手厩舎長から声をかけられた。
スーツ姿の横手さんは、
「今年も来ちゃいました」と笑みを浮かべる。昨年はディープインパクトを育成した関係者として、TV、雑誌問わず、様々なマスコミに追いかけられていた横手さんだったが、
「今年は林(厩舎長)さんのところのアドマイヤムーンとアドマイヤメインが主役ですよ」と話す。パドックの中にいた林さんが昨年の2歳馬の取材で、
「能力が違うし、絶対にクラシックに乗ってくるはず」と太鼓判を押していたのが
アドマイヤメインだった。
「それでも横手さんのところだって、ジャリスコライトとフサイチリシャールの2頭をダービーの舞台に送り出してきたじゃないですか」
と話を向けると、
「そうですよね。またここに来ることができたんですよね」とパドックの中にいた育成馬の2頭に目をやった。
第73回ダービー馬の座についたのは、横手さんや林さんが育成を手がけた馬ではなく、
浦河の生産馬で、
九州で育成された
サンデーサイレンスの血が一滴も入っていないメイショウサムソンだった。
生産は浦河の林考輝牧場。これまでにも
マイネルボウノットなどの活躍馬はいるが、G1どころか、牡馬クラシックに駒を進めた馬はメイショウサムソンが初めてだという林さん。皐月賞後に取材をした時、
「あの時はびっくりするばかりで、よく覚えてないんですよ」と話していた。勝者を讃えるために慌ただしさを増した検量室に、興奮のためか顔を真っ赤にした林さんの姿があった。
「おめでとうございます」と駆け寄って握手を求めるも、林さんはどこか
上の空といった様子で、きっと皐月賞の後もこんな感じだったのでは、と思った。
でも、家族経営で牧場を営んでいる林さんは、喜びに浸っている暇も無く、今日中に浦河へと戻り、明日も朝早くから仕事をしなくてはいけない。
きっと日々の仕事に戻ったふとした瞬間に、ダービー馬を生産したという喜びがこみあげてくることになるのだろう。