ダート中距離でのヒシアトラスには、漬け物石のような安定感がある
「私は黒鹿毛が好きなんですよ」。以前、冠名
“ヒシ”のオーナー、
阿部雅一郎氏に話を伺った際、そのようにおっしゃっていた。
鹿毛でも
栗毛でもない、あのビシッとした黒色の力強いイメージがお好きなのだということだった。
その話を伺ったのは、
ヒシミラクル登場以前なので、現在では変わっていらっしゃるのかもしれないが、確かに以前の
“ヒシ”の活躍馬は黒鹿毛が多かった。
エリザベス女王杯馬ヒシアマゾン黒鹿毛
スプリンターズS馬ヒシアケボノ黒鹿毛
毎日杯など重賞3勝
ヒシマサル黒鹿毛
フェアリーS馬ヒシナイル黒鹿毛
他には、
阪神牝馬特別など重賞4勝を挙げた
ヒシナタリーと
ローズSを勝った
ヒシピナクルが青鹿毛である。
こうした中から
芦毛の
ヒシミラクルが登場したのだから、ヒシミラクルは
毛色的にもミラクルだったような気がしてくる。
エルムSを制した
ヒシアトラスは、バリバリの(?)黒鹿毛ホース。2000年のセレクトセールにおいて、
2150万円で購買された馬だ。
今回の勝利で獲得賞金は
約4億円となり、実に当歳時の購買価格の20倍近くを稼いだことになる。馬主孝行この上なし。
それだけ稼いだ背景には、
丈夫で
長持ち、しかも
安定したレースぶりがある。
エルムSが通算35戦目だったが、4コーナーで5番手以内にいなかったのは、わずか7レース。芝やダート長距離戦を除けば、ほぼ毎度、
勝負圏内の位置で4コーナーを回ってきている。
ダート中距離戦でヒシアトラスが4コーナー5番手以内にいる確率は、おそらく、
芸能人の結婚記者会見で梨元さんが記者席中央に陣取ってる確率とほぼ同じくらい(笑)。違いは
「恐縮です」と言うか言わないかだけだろう(笑)。
今回のエルムSでも、スタート直後こそ鞍上の
横山典騎手に押されていたが、スッと2番手に取り付くと、その後は一糸乱れることなく馬場を1周してきた。
「砂を被らなければ」とか
「前崩れになれば」といったタラレバは一切不要。
漬け物石のような安定感である。
ダート1600m~1800mは、27戦して
10勝、2着8回、3着4回、4着3回、5着と6着が1回ずつ。
これだけ安定感がある脚質、そして成績も残していながら、なぜに
5番人気だったのか? なぜに馬券の中心に据えられなかったのか? こちらが
「恐縮です」と言うばかりだ。
馬主孝行である
ヒシアトラスは、これからもまだまだ走り続けることだろう。馬券購入者に対しても、まだまだ孝行してくれるチャンスはあるに違いない。