“クビ差”“ハナ差”にも、陣営の努力は詰まっているものだ
最近の幼稚園の運動会(かけっこ)は、最後に
みんなで手をつないでゴールするんだとか。でもって、運動会が終わった後に流れる曲は、
『世界に一つだけの花』。
まあ、そんな幼稚園ばかりじゃないんだろうけど、もしそんな光景を
馬券オヤジが目にしたら、
「写真判定で白黒つけんかい!」と言って怒り出しそうだ(笑)。
今年の
府中牝馬Sは、
2002年生まれの4歳牝馬3頭が、まさに手をつないでいたかのように、横一線でゴールした。
これが幼稚園なら
「デアちゃんも、レイちゃんも、ビアちゃんも、みんなよく頑張ったねえ」と褒められて、
“マッキー”が流れ始めるんだろうけど、競馬ですからそうはいきません。
勝った
デアリングハートは、2歳秋に初勝利を挙げて以降、惜しい競馬を何度も繰り返していた馬。それが前走の
クイーンSを勝ち、ここも接戦をものにした。
これは運でもなんでもないだろう。もともと
イレ込み癖のあった馬が、歳を重ねて落ち着き、ようやく能力を全開できるようになったのだ。
もちろん陣営の努力も見逃せない。
藤原英厩舎では、通常の
ウッドチープコースでの調教や
坂路追いに加えて、
プール調教も織り交ぜて、
デアリングハートを仕上げたのだとか。
プール調教は、鍛錬の目的ではなく、
リフレッシュ効果が認められ、近年、多くの厩舎で導入されている。その効果が、この連勝につながっているのは間違いないだろう。
2着の
サンレイジャスパーは、
マーメイドS、
新潟記念に続いて今回も重賞2着に終わってしまったが、やはり現役古牝馬の中では一線級の力があることを示した。
今回は主戦の
佐藤哲騎手が騎乗停止中のため
中舘騎手に乗り替わったが、これまでと変わらない末脚を見せた。
なんでも
佐藤哲騎手が
中舘騎手に
サンレイジャスパーの癖を教えていたそうで、それが役に立ったのだろう。
自分のお手馬が他の騎手で勝つのはジョッキーとして微妙な心境になるはずだが、
サンレイジャスパーに重賞を獲らせてあげたい、という思いがそうさせたんじゃないか。
3着となった
ディアデラノビアは、これで
マイラーズC、
ヴィクトリアマイル、
オールカマー、
府中牝馬Sと、4戦連続での3着。
特に近2走は勝ち馬とタイム差ナシの接戦ながら、惜しくも差し切るまでには至っていない。
よく頑張っているし、
フローラS以来となる重賞制覇も近いだろう。ただ近走は自分よりも強い馬がいたということだ。
“クビ差”や
“ハナ差”でも、きっちり白黒つけるのは競馬にとって当たり前だけど、最近の世の中の風潮は、どうもそういう方向ではないようだ。
でも、馬はもちろん、厩舎の人やジョッキーは、それこそ
0秒1未満の差をひっくり返す努力を地道にしているわけで、勝ち負けをハッキリつけるからこそ伸びるものもある。
大接戦を演じた3頭は、次走は
エリザベス女王杯へ向かうのだろう。今度は、1歳下の
無敗の二冠馬と白黒をつける戦いが待っている。