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馬産地・日高に、あの日の歓声は起こらなかった
取材・文/村本浩平

午前中に取材があり、菊花賞はウインズ静内で見ることになった。

ウインズ静内は馬産地の中心という場所柄、多くの生産者が足を運ぶウインズである。

馬産地情報が実際にあるのかどうかは分からないが、ウインズ静内の的中率や払い戻し額の平均は、他のウインズより高いらしい。

確かに何人かの生産者に声はかけられたが、みんな決まって「馬券につながる話は無いの?」と聞いてきたところを見ると、的中率や払い戻し額が高いという事実には、少々疑問を感じた。

今日はここで須田鷹雄さんが菊花賞のイベントを行っていた。

須田さんは菊花賞の予想に入る前に「メイショウサムソン絡みの馬券を買われた方」と声をかけたところ、そこに集まったほぼすべての人間が手を挙げた。

一方、「ドリームパスポート絡みの馬券を買わなかった方」には、何人かが手を挙げていた。

社台グループの生産馬であるドリームパスポートより、同じ日高地区の代表であるメイショウサムソンを応援したいという気持ちがここでは強いのだろう。

実際にダービーのレース後のウインズ静内では、いたる所から歓声や拍手が起こったという。

メイショウサムソン、そして無敗の二冠牝馬となったカワカミプリンセスと、日高で一般的とされる、家族経営の牧場からのクラシック制覇。

また、血統も、これまでクラシックを席巻してきたサンデーサイレンスではなく、日高で繋養されている種牡馬の産駒。

「ひょっとしたら、自分たちもいつかあの表彰台に…」との気持ちが心を揺り動かし、拍手や歓声につながったことは、容易に想像ができる。

スタートしてまもなく、アドマイヤメインがハナを切った。

武豊騎手に気合いを付けられるとその差はみるみる開き、後続を10馬身ほど引き離した様子が大型ビジョンに映し出された時には、ウインズ静内中からどよめきも起こった。

メイショウサムソンは離れた4番手を追走する。その時、ウインズ静内だけでなく、日高中の生産者のほとんどが、「お願いだから勝ってくれ」と祈るような気持ちを持ったに違いない。

しかし、直線一気の豪脚で日高の夢を阻んだのは、追分ファームの生産馬であるソングオブウインドだった。

しかも2着のドリームパスポート、3着のアドマイヤメインともども社台グループの生産馬で、しかも3頭すべてにサンデーサイレンスの血が入っていた。

レース後すぐに追分ファームに電話をしたが、牧場時代のソングオブウインドは、エルコンドルパサーというより母父のサンデーサイレンスの影響が強く出ていたという。

それでも「これでエルコンドルパサーの後継種牡馬となりうる資格を得たことは嬉しく思います」と話してくれた。

一方、メイショウサムソンは直線で脚を伸ばすことなく4着に敗れた。これまでに見せてくれた渋太さや、いい脚を長く使える片鱗はそこに無かった。

「菊花賞は強い馬が勝つレース」と言われている。

このレースをレコードで制したソングオブウインドの強さは言うまでもない。

でも、だからこそ日高産馬の代表であるメイショウサムソンに、この菊花賞では勝負以上の強さを見せてもらいたかった。

レース後、ウインズ静内からは一気に人がいなくなった。

先ほど、馬券のことで話し掛けてきた生産者の姿も、すでにない。

低迷が続く馬産地日高にとって、光明となるような結果とダービーの後で見られた感動的フィナーレを期待していたのかもしれない。

しかしこの日、あの時のような歓声や拍手は、静内ウインズに起こらなかった。

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