接点のなさそうな父と息子に、奇妙なつながりが生じていた
文/近藤健之
交わした瞬間、反射的に
グラスワンダーと
スペシャルウィークのワンツーで決まった
有馬記念の絵を頭に浮かべた。とはいえ、脳内で追った馬影は前の2頭ではない。ヤツはどこだった?
ドリームジャーニーの父、
ステイゴールドはあの時何着だった……?
サンデーサイレンス直仔がいなくなり、迎えた脱・サンデー産駒元年の
朝日杯フューチュリティS。いなくなっただけでなく、今年のレースには
ダイタクリーヴァの産駒、つまり
サンデーのひ孫である
コアレスレーサーも馬柱に名を連ねており、多面的に世代の移り変わりを感じさせる出走メンバーが揃った。
今年ここまで、2歳リーディングサイアーとしてランキング首位に君臨しているのが
スペシャルウィーク。そして、このレースで断然の1番人気に推されたのは、その産駒である
オースミダイドウ。父に加え、前走G2・
デイリー杯2歳Sで控える競馬を試した上での3戦3勝という実績と勢いは、
単勝2.1倍の支持に足り得るものだったと言えるだろう。
また、この馬を含む出走馬15頭中には、
スペシャルウィークの現役時代にライバルだった
グラスワンダーの仔、
マイネルレーニアがいた。この馬も
オースミダイドウ同様、前走G2の
京王杯2歳Sで、それまでの逃げから控える競馬を試して1着だった。
レースではまず、スタートで2番人気の
ドリームジャーニーが出遅れ。ハナは
アドマイヤホクトが叩いたものの、直後、行きっぷりに任せるかのように
オースミダイドウが馬群から前に出ると、スタンドからはどよめきが。
3番手にはここ3戦オープン特別と重賞で3着2着2着と、詰めの甘さに弱点を抱える
ローレルゲレイロが追走。出遅れた
ドリームジャーニーは第3コーナーの入口までポツンと離れた最後方を追走するという、一見、絶望的な位置での競馬を強いられていた。
前半の速いラップによって馬群はやや縦長に。3角からのコーナーワークで
ドリームジャーニーはマクリ気味に動き出していたものの、この段階でこの馬に注目していたのはおそらく、馬券購入者と関係者だけだろう。
衆目が集まる先団は4コーナーを回って直線に入り、残り300mの地点で外目の
ローレルゲレイロが逃げる内の
オースミダイドウを交わしにかかる。しかしここから、
オースミダイドウも驚異的な辛抱強さを発揮。残り200m地点で一度は完全に交わされたものの、その後、二の脚を繰り出して再び並びかける。
しかし、再度、
ローレルゲレイロにクビ差出られ、これで勝負あり、と思ったその刹那! 3コーナーから末脚を使い続けていた
ドリームジャーニーが外から猛烈な伸びを見せてこれに急接近。
ローレルゲレイロを飲み込んだところが決勝線だった。
相棒・
蛯名騎手の馬を最後まで信じた騎乗により、“あの”2着付け番長
ステイゴールドの仔が、追い込み一気の強烈な決め手で、なんと2歳にしてわずか4戦目でG1タイトルをモノにしたのだった。
父
ステイゴールドがG1馬となったのは引退戦の50戦目、
7歳冬の香港ヴァーズにて。どちらかというと、またも2着に敗れた
ローレルゲレイロの方が彼の産駒ではないかと錯覚してしまうが、こちらは紛れもなく
キングヘイローの仔。
むしろ父とはまったく接点がなさそうに見える勝ち馬だが、この日この馬が1着するわずか30分前には父が制した思い出のG1、
香港ヴァーズがシャティン競馬場で発走を迎えるという奇妙なつながりが生じていた。
99年の有馬記念で
グラスワンダーと
スペシャルウィークを相手に10着と完敗した
ステイゴールドの仔が、彼らの仔を完封してこんな風にG1馬になるとは、なんとも不思議な縁ではないか。さらに言えば、
ドリームジャーニーを管理している
池江泰寿調教師のお父上は、
ステイゴールドを手がけた
池江泰郎調教師である。