田中勝春騎手も、社台ファームも、馬券を獲ったみなさんも、「つかみはOK!」
文/村本浩平
掴みは肝心だ。特にお客さんを瞬時に笑わせなくてはいけないお笑いでは、掴みがとても重要である。
「つかみはOK!」の名文句で、その意味を広く知らしめた
ダチョウ倶楽部。獅子舞を脱ぎ去ると素っ裸に獅子舞という奇妙な出で立ちで現れ、場内を沸かせた後に
「よっしゃ、ネタ行こうか!」と言った瞬間に失速していく
たむらけんじなどは、
好スタートを決めたものの急に失速していく逃げ馬を想像させる。
今年最初の重賞となる
中山金杯で、
「つかみはOK!」だったのが、勝った
シャドウゲイトに騎乗した
田中勝春騎手。
3コーナーで逃げる
ワンモアチャッターに並びかけると、4コーナーでは先頭に立ち、その後は独走。2着に入った
アサカディフィートに
7馬身差の圧勝を果たした。
04年に通算1000勝を達成するなど、騎乗技術の高さには定評があるものの、
「G1では勝てない騎手」との烙印を押され、昨年のリーディングジョッキーの順位でも
全国17位(大井の内田博幸騎手を含む)とすっかりベテラン騎手として落ち着いた感もある。
しかし、このレースで見せたような
ひらめきの好騎乗は、まさに
田中勝春騎手ならではのもの。年男を迎えた今年は奮起して、
G1制覇だけでなく、
関東のリーディングジョッキーの座も目指してもらいたい。
そして同じく
「つかみはOK!」だったのが
社台ファーム。リーディングブリーダー争いでは、同じ
社台グループの
ノーザンファームに3年連続して首位を明け渡しているものの、この勝利で瞬間的ながらも本年度のリーディングブリーダーの座に付いた。
現在における日本競馬界のレベルを上げているのは、紛れもなく
社台ファームと
ノーザンファームが競い合っているからである。
昨年のリーディングブリーダーで3位の
白老ファームと5位の
追分ファームを含めた
社台グループが寡占している今の競馬を面白くないと思っている人もいるかもしれないが、社台グループ内での競い合いが日本競馬のレベルアップに繋がっていることは疑いようがない。
ディープインパクトというノーザンファームのジョーカーが引退した今、リーディングブリーダー争いは、さらに混迷を深めていくことになるはず。
となると、古馬、3歳ともに有力馬がいる
社台ファームが、この勢いでリーディングブリーダーの座を奪回する可能性は充分にありえる。
それはこのレースを勝った
シャドウゲイトにも言えることである。
一昨年の
プリンシパルSでは2着に入り、
ダービーや
菊花賞にも出走したほどの馬。その後、
条件戦を地道に勝ち上がり、ようやく
重賞勝ちという栄光を掴んだ。
卓越した先行力で後続を振り切れることはこのレースで証明できたわけだし、同父の
イングランディーレが同じ5歳時に
天皇賞・春を逃げ切ったことを考えると、
シャドウゲイトにも同じ大仕事ができないとは言えないだろう。
この
中山金杯の馬券を的中させて、
「つかみはOK!」だった人も中にはいるはず。年末になってもこの勢いのまま、突っ走れるのは
田中勝春騎手か、
社台ファームか、
シャドウゲイトか、はたまた
この馬券を的中させた人となるのだろうか?