「血統下克上」と「絶妙な騎乗」が見られた京成杯
文/編集部
サンツェッペリンの父
テンビーは現役時代、
英ダービーでは同厩舎だった
コマンダーインチーフに完敗を喫し、
キングジョージでは
オペラハウスの後塵を拝した。
種牡馬としては、
メルボルンCを制した
ジューンを輩出したものの、日本では
フジノテンビーが
デイリー杯3歳Sを勝った程度。
現役時代も種牡馬としても、
テンビーはどちらかといえば
地味な存在である。
息子
サンツェッペリンもまた、母母父に根幹種牡馬の
ロベルトは入っているが、
テンビー×オジジアンという配合は現在の日本では地味な血統構成で、母系からも目につく活躍馬は出ていない。
血統だけを見れば、
ローカルの芝・ダートの短距離で走りそうなタイプ。それが素直な印象だ。
ところが、
サンツェッペリンは
福島ダート1000mのデビュー戦で
6着に敗れ、続く2戦目の
福島芝1200mでも
11着に大敗。
適条件と思われた2戦で負けたとなれば、もはや単純に能力不足。傍目には、そう決めつけられても仕方がないデビュー2戦だった。
だが、
サンツェッペリンは変わった。3ヶ月半の休養を挟んで、
東京芝1800mの
未勝利に出走するとこれを快勝。フロックかと思ったが、続く
百日草特別で2着。
「あれっ、けっこう強いのか!?」と思っているうちに、昨年暮れの12月に
エリカ賞5着、
ホープフルS2着。
「これはひょっとすると本物か!?」と思った矢先、今回の
京成杯を2馬身差で快勝。あれよあれよという間に、
重賞まで制してしまった。
デビュー2戦では勝ち馬から
2秒以上も離されて大敗していたのに、中距離に替わってからは、負けたレースでもすべて勝ち馬から
0秒4差以内。馬、
血統はやっぱり奥が深くてムズカシイ……。
ただ、地味な血統馬の
サンツェッペリンが、
メイショウレガーロや
ローズプレステージをはじめとする良血のサンデー系産駒、
シンボリクリスエスの半弟
ピサノデイラニなどを打ち負かす。
こういった
「血統下克上」があるからこそ、競馬にはロマンが介在し、魅力的で面白い。
残念ながら、
サンツェッペリンに勝利者インタビューのマイクを向けても返答はいただけないのだが、ボクシングの亀田興毅ばりに
「どんなもんじゃい!!」とシャウトしているやもしれませぬ(笑)。
そんな
サンツェッペリンの快走には、
松岡騎手の
「絶妙な騎乗」があったことは見逃せない。
百日草特別や
エリカ賞では、レースの上がりが
34秒台となり、瞬発力の差で惜敗していただけに、スローペースの差し勝負ではおそらく分が悪いと思ったのだろう。
実際、
サンツェッペリンが
未勝利を勝った時のレースの上がりは
35秒1、ハイペースとなった
ホープフルS(2着)は
37秒8、そして
京成杯(1着)は
35秒0。すべて35秒以上かかっている。
前半5F(62秒3)12秒6
11秒6
13秒4
12秒2
12秒5
後半5F(59秒3)12秒1
12秒2
11秒4
11秒4
12秒2
上記のラップは
京成杯で
サンツェッペリンが刻んだものだが、前半をスローに落として、後半は平均ペースの持続力勝負に持ち込む。これは
ノーザンダンサー系に向く流れと言えるが、こうなると、後続の馬はなし崩しに脚を使わされてしまう。
デビュー前から
サンツェッペリンのことを知っていたという
松岡騎手が、馬の能力を最大限に発揮させ、ライバル馬の力を封じ込めた。ラップはそう語っている。
京成杯のメンバーがクラシックで通用するかは正直、レベル的に疑問が残るのだが、今回は
「血統下克上」と
「絶妙な騎乗」という
“いいもん”が見られたということで良しとしたい。