愚直なまでの信頼が究極の末脚を引き出した
文/編集部
前半の1000m通過は
62秒2。過去10年の平安Sと比較しても、もっとも遅い通過タイムだ。4着となった
タイキエニグマが、向正面で我慢しきれずに動いていったのも、やむを得ないといった感じ。
そんな中、
メイショウトウコンはスタート直後に躓くアクシデントがあったにせよ、後方で慌てず騒がずじっくりと脚を温存。直線入口ではほぼ最後方の位置取りから、
上がり35秒1という究極の末脚を繰り出し、ライバル勢を切って捨てた。
メイショウトウコンはデビューから芝で18戦して
[1.3.4.10]、5走前にダートに転向してからは
平安Sを含め
[4.1.0.0]。芝とダートでこれほど成績が一変する馬も珍しい。しかも、ダート5戦では、すべて
上がり最速をマークしているという。
その強烈な
末脚もさることながら、
まだ底を見せていない実力を考えても、まさに
末恐ろしい馬だ(笑)。
流れが超スローペースとなった分、勝ち時計の
1分51秒0も過去10年で2番目に遅い(もっとも遅かったのは04年タイムパラドックスの
1分51秒3)。
だが、
メイショウトウコンが繰り出した上がり
35秒1は、過去10年で、06年4着
アンドゥオール、6着
ワイルドワンダーと並んで最速だった。みんな父が
ブライアンズタイム系というのも何かの縁か。
それだけの脚が使えた要因は、もちろん馬の実力があってこその芸当だが、レース後、
「馬の末脚を信じて乗った」と語った
石橋守騎手の手腕に寄るところも大きいだろう。
前述した
タイキエニグマではないが、あれだけ遅い流れで勝ちに行くとなると、それこそ早めに動こうとする意識が、騎手に働いても不思議ではない。
だが、
石橋騎手は愚直なまでに馬のことを信じた。直線を向くまで、馬の脚を温存することに努めた。それが
メイショウトウコンの直線での脚を引き出した。
人馬一体の好騎乗と言える。
メイショウサムソンで二冠を制した時のインタビューでも、
石橋騎手は
「馬の力を信じて乗った」と事あるごとに話していたが、馬と人との信頼関係を大事にする騎手。
以前、取材で話を伺った際には、
「人は人との繋がりが大事だよ」と語っていた
石橋騎手だが、信頼という点では人でも馬でも変わらない。
石橋守という騎手はきっと、そういう男だ。
さて、
メイショウトウコンはおそらくこの後、
フェブラリーSに向かうことになるだろう。
平安Sを制した馬は過去10年、フェブラリーSで
[1.0.1.8]という成績で、G1に昇格した97年に
シンコウウインディが連勝して以降、実は連続連対した馬はいない。
ダート界のホープ・
メイショウトウコンは
フェブラリーSにおいて、その不振データを払拭することができるのか。
末恐ろしいトウコンに期待しましょう(笑)。