あの天皇賞・秋以降、稲原牧場ではトップクラスの繁殖牝馬にサンデーを配合し続けていた
文/村本浩平
ディープインパクト以前における、
サンデーサイレンスの最高傑作は
サイレンススズカ、という意見に異論はないだろう。
サラブレッド界における
極値とも言えるスピードで逃げられたのなら、3コーナー手前から移動歩道を走ってくるかのように伸びてくる
ディープインパクトでさえ、届かないのではないかという想像が沸き立つ。
あの
天皇賞・秋のすぐ後に、取材で生産牧場である
稲原牧場を訪ねたことがある。
代表の稲原一美氏は、辛い心境を見せることなく、こちらの質問に丁寧に答えてくれた後で、
「サイレンススズカが亡くなった今、どうしてワキアにサンデーサイレンスをまだ配合させられなかったのかを悔しく思います」と話してくれた。
だからなのだろうか。
サイレンススズカが非業の死を遂げて以降、稲原牧場では、繋養するトップクラスの繁殖牝馬に
サンデーサイレンスを毎年のように配合し続けている。
その中には
サイレンススズカの半姉で、京成杯の優勝馬
スズカドリームの母でもある
ワキアオブスズカや、
スズカフェニックスの母である
ローズオブスズカの名前もあった。
スズカフェニックスが初勝利を挙げたのは、
サイレンススズカと同じ3歳の2月のこと。だが、次のレースで
弥生賞に挑戦した
サイレンススズカに対し、
スズカフェニックスが初めて重賞レースである
朝日CCに出走したのは、
4歳の秋になってからだった。
近親には種牡馬となった
ドクターデヴィアスや
シンコウキングがいる良血馬ながら、ローカル戦にも出走し、条件レースをひとつひとつ勝ち上がってきた
スズカフェニックスは、重賞の壁も問題とすることなく、安定した成績を残し続ける。
4度目の重賞挑戦となった
東京新聞杯では後方から力むことなくレースを進めると、直線で鞍上の
武豊騎手に導かれながら大外を回り、馬群を割ってきた
エアシェイディの追撃を振り切った。ちなみに
サイレンススズカが初めての重賞勝利をあげたのは、6度目の挑戦となる4歳春の
中山記念である。
レース後、この勝利が今年の初重賞制覇となる
武豊騎手は、
「今年はこの馬に期待するところが大きいです」と話している。
同じ生産牧場というだけでなく
同じ馬主、そして
同じ鞍上とはいえ、
スズカフェニックスに
サイレンススズカ2世となるような活躍を期待するのは酷なことかもしれない。
しかし、賞金的にも今年のG1出走に支障がなくなった今、
あの勝負服がG1のゴール板を先頭で駆け抜けることを想像したくなる。
それは
サイレンススズカのレースを見てきた我々や、そして関係者にとっても許されたはずの夢なのだから。