頭の中をバージョンアップしなければ、日本競馬のレベルアップには付いていけない
文/編集部
『海外遠征壮行レース』と聞くと、身を固くしてしまう。古い競馬ファンだけの感覚かもしれないが、およそ30年前の出来事が頭をかすめるからだ。
日経新春杯と
京都記念、レースこそ違うが、どちらも
冬の京都競馬場の芝コース。しかも今年は
雨降り馬場だった。雪にこそならなかったものの、馬場はぬかるみ、
アドマイヤムーンは他馬よりも重い
59kgという斤量を背負っていた。
66.5kgなどという酷量は今ではありえないが、
冬の道悪での59kgは不気味さを感じさせる数字だった。無事に走ってほしい。馬券の当たりハズレ以前に、そう願わずにはいられなかった。
アドマイヤムーンはデビュー以来の最高体重となる
482kgで出走してきた。前走比
12kg増。3月の
ドバイデューティフリーを目標として掲げており、それを見据えての調整であることは窺い知れた。
道中は中団待機。いつも通り、いや、普段よりも行きっぷりは良かったくらいか。そのまま4コーナーを回って直線に向くと、馬場の中央をまっすぐに伸びてきた。
確実に、地を駆るようにして進んでくる。
12kg増も、
雨の稍重馬場も、
2200mも一切関係なし。杞憂に終わるとはまさにこのこと。壮行レースを
『完勝』の文字で終わらせてみせた。
海外遠征壮行レースと聞いて身を固くしているようでは、今の時代、古い。ドバイ遠征前に出走してきた2頭がワンツーする場面を目の当たりにして、こちらはただ苦笑するだけだった。
海外のG1レースで好勝負するには、
国内のG1を持ったままで楽勝するぐらいの力が必要。そう感じてきた。
例えば、
98年安田記念を
2馬身半差で制した
タイキシャトル。同じく
98年ジャパンCを
2馬身半差で完勝した
エルコンドルパサー。
G2や
G3ではなく、
国内最高峰のG1で圧勝するぐらいの力を持つ者でなければ、海外では太刀打ちできないと思ってきた。
でもそれも、20世紀までのお話なのかもしれない。
国内G1を勝てなくても、海外で勝ったり好勝負するケースが増えている。日本競馬のトップは
世界のAクラスとほとんど遜色ない。こちらの頭の中もバージョンアップしなければ、付いていけなくなる。
アドマイヤムーンは国内G1未勝利ではあるが、年末の
香港Cのレースぶり、そして今回の走りを見れば、今後も海外G1で好勝負しそうなのは容易に想像が付く。
札幌記念や今回の快勝を加味すれば、むしろ
洋芝の方が活躍の場が広がる可能性もある。
では、
ドバイデューティフリーはどうか。
ヨーロッパや
オーストラリア、
南アフリカからも一線級がやってくるこのレースは、確かにレベルが高い。過去に挑戦した日本馬が満足なレースをさせてもらってないことからも、レースの厳しさが感じられる。
ただひとつ、過去の優勝馬を見て気づいたことがある。近3年は、昨年が
David Junior(牡4)、一昨年が
Elvstroem(牡5)、04年が
Right Approach(牡5)という3頭が勝っているのだが(04年は同着)、それぞれの父は
Pleasant Tap、
Danehill、
Machiavellianなのだ。血統好きな方は分かるだろうが、この3頭は
ある共通項がある。そう、いずれも
Riboの血を持っているのだ。
アドマイヤムーンの父は
エンドスウィープ。その父は
フォーティナイナーで、
フォーティナイナーの母父は
Ribo系である。
昨年の
ドバイデューティフリーに挑戦した
ハットトリック(12着)と
アサクサデンエン(15着)も、血統内に
Riboの血を持っていたが、どちらも
母系だった。
果たして、
父系に
Riboを持つ
アドマイヤムーンの結果や如何に!?