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キンシャサノキセキの初重賞制覇は高確率に思えたが……
文/関口隆哉

就職活動をしていた時、筆者は履歴書の尊敬する人物欄に「モハメド・アリ」と書き込んでいた。当然、面接ともなれば、なぜアリを尊敬しているのかを聞かれるわけだが、中学1年生にして、二段組500ページ以上にも渡る大著『永遠のフォーク・ヒーロー モハメド・アリ』を読破していた筆者は、モハメド・アリが好きな理由を、熱を込めて語りまくったのである。

なかでもアリが絶対王者ジョージ・フォアマンを8RKOで降して世界ヘビー級王者に復帰した、「キンシャサの奇跡」(キンシャサは、試合が行なわれたアフリカ・ザイール共和国の都市名)は、筆者の語り口が一段とヒートアップする、最大の聞かせどころとも呼べる箇所なのであった。

まあ、モハメド・アリへの熱い想いが、「コイツ、なんかアブナイ奴かも」と受け取られたのか、就職活動の結果は惨憺たるものではあったのだが、キンシャサノキセキという馬名を初めて見た時から、ごく自然に筆者はこの馬を応援し続けることを決意したのだ。

そして、ひいき目は抜きにしても、この阪急杯キンシャサノキセキ初重賞制覇を飾る確率は、かなり高いと思えた。3走前に準OP特別の桂川Sを圧勝した時と同じ1400mという距離、出走16頭中もっとも軽い55キロという斤量、出来の良さを強調していたレース前の陣営のコメント、さらに、この一戦から乗り替わった名手O・ペリエの手腕

筆者には、すべての材料が、キンシャサノキセキ重賞初制覇を後押ししているように感じられたのだが、そう考える競馬ファンは多数存在していたようで、キンシャサノキセキは、堂々の1番人気に推されて、レースに臨むことになった。

スタート直後、鞍上ペリエは意識的にキンシャサノキセキを抑えたようだった。後方追走で脚を溜める作戦。ところが、向こう正面で、キンシャサノキセキが弱点である引っ掛かり癖を見せる。結局、この前半戦の誤算が、ゴール前でのキンシャサノキセキの末脚を鈍らすことになった。

4着に終わったキンシャサノキセキを尻目に、激しいトップ争いを繰り広げたのは、早めに抜け出したプリサイスマシーン、並んで追い込んできたエイシンドーバースズカフェニックスの3頭。長い、長い写真判定の末に出た結果は、プリサイスマシーンエイシンドーバー1着同着という、極めて珍しいものだった。

スワンSに勝ち、阪神Cで2着したプリサイスマシーンは、芝1400mのスペシャリストとも呼べる、8歳の高齢馬。成長力に優れた父マヤノトップガンの血もあるのか、現在がピークともいえる充実ぶりを示している。

湯浅調教師の勇退に花を添えたエイシンドーバーの走りもまた見事だった。3戦連続重賞で連対した安定感は、今後のG1戦でも大きな武器となるはずだ。

一方、またしても脆さを見せたキンシャサノキセキだが、これで高松宮記念の単勝配当がよりオイシイものになったと、前向きに考えたい。

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