「俺らもG1タイトルが欲しいんだよ!」。そんな声が聞こえるディープ世代の男たち
文/編集部
まったくの完勝劇だった。
中京芝2000mコースは、1800mコースに比べれば枠の有利不利が小さいとはいえ、開幕週の内枠は絶好。
ローゼンクロイツの
藤岡佑騎手はそれを活かすように、道中は内ラチ沿いをロスなく走り、4コーナー手前で馬群の外を回って進出し、直線で抜け出した。
お手本のような横綱相撲。そんな競馬をされて
レコードタイムを叩き出されたのでは、他馬が太刀打ちできなくても仕方なしか。
唯一の誤算と言えたのは、横綱相撲で完勝する馬がいたのに、戦前、その馬を
横綱と認識できなかったこと。
単勝オッズ10.4倍の4番人気ですからねぇ。すっかり
カド番大関くらいに感じていた(笑)。
隣枠の
トウショウパワーズが単勝1番人気に推され、すっかりこっちが
横綱になるのかと思ったら、
ローゼンクロイツと同じような競馬をしながら伸び切れず。
重賞初挑戦の馬が、
皐月賞・
ダービー・
菊花賞と走り、
ディープインパクトとも何度も戦ってきた馬に貫禄を見せつけられたようだった。
思えば今回の1&2着は、あの
ディープインパクトの
ダービーに出走していた馬だった。
ローゼンクロイツは
8着、
シルクネクサスは
12着に敗れていたとはいえ、同期の
トウショウパワーズはその頃は
500万下、
マチカネオーラは
1000万下だった。上級クラスで揉まれてきた年季が違っていたのかもしれない(
コンゴウリキシオーもダービーには出てて11着だったんですけどね)。
ローゼンクロイツ復活の裏には何があったのか。いや別に、何もあったわけではないのかもしれない。
3歳春に
毎日杯を制した後は、
皐月賞から前走の
京都記念まで、11戦中10戦がG1かG2戦。唯一のG3戦だった昨年の
中京記念でもクビ差の2着になっているのだから、単純にG3では力が上だったということなのだろう。
いやそれにしても、このコースの重賞では
サンデーサイレンス直仔は不振のはずだったのだが……。
これだけの好タイムが出る以上、もうそのことは改めるべきなのだろう。
サンデー直仔がこのコースの重賞を勝ったのは、長い間、98年
金鯱賞の
サイレンススズカだけだった。その後は昨年の
中京記念を
マチカネオーラが勝つまで、ずっと負け続けていたのだが、その
中京記念で3着までを上位独占してからは堰を切ったように
サンデー直仔が来まくっている。
06年以降は中京芝2000m重賞が8戦行われ、
サンデー直仔が4勝。サンデー直仔が1頭も出ていなかったレースがひとつあるので、戦績は
7戦4勝。勝率は5割を超えている。
そして、8レースの勝ち時計はこうだ。
1分58秒2
1分58秒8
1分57秒4
1分58秒2
1分58秒1
1分57秒8
1分58秒6そして今回が
1分56秒9。
98年~05年にこのコースで行われた重賞23レースの平均勝ち時計が
1分59秒5なのだから、もはや説明は不要だろう。こんな馬場なら横綱は
サンデー直仔だったのだ。
ちなみに、戦前のこのコースのレコードホルダー、
ワンモアチャッターは4着で、その走破時計は
1分57秒5だった。従来のレコードが
1分57秒3なのだから、ほぼ自己ベスト通りに走ったと言える。それなのに、勝ち馬は自分の4馬身くらい先にいるというのだから……。ゴール入線後、
ワンモアチャッターは、
「時計、速すぎだっての」と言っていたとかいないとか(笑)。
ローゼンクロイツは、
ディープインパクトらと戦ってきた蓄積を披露するかのような快勝だったが、これは今年に入ってからの傾向でもある。というのも、
ディープ世代の牡馬は、今年に入ってから重賞を勝ちまくっているのだ。
年明け最初の重賞である
中山金杯を
シャドウゲイトが逃げ切ると、翌日の
ガーネットSも
スリーアベニューが制覇。その後も
トウカイワイルド、
メイショウトウコン、
スズカフェニックス、
トウカイトリック、
エイシンドーバー、
アイルラヴァゲインと勝ちまくり、G1の
フェブラリーSも
サンライズバッカスが優勝した。
4歳だった昨年は8月の
新潟記念を
トップガンジョーが制したのを最後に、秋は重賞を1勝もできなかったのだが、ディープが種牡馬となってやる気が出始めたのか(?)、今年は次々と重賞を制している。
次に狙うのは、これまでディープが総なめにしてきた芝G1タイトルだろう。それはローゼンクロイツも同じ。しかも同馬には、薔薇一族の悲願もかかっている。
自身がG1で
⑨、⑧、③、⑧、⑬着であるばかりでなく、姉
ローズバドが
②、②、②、⑧、⑭、⑤着。母
ロゼカラーが
⑤、④、③、⑬着、おじの
ヴィータローザが
⑦、⑫、⑦、⑪着、同じくおじの
ロサードが
⑨、⑨、⑥、⑪、⑯、⑧、⑨、⑦、⑫、⑧、⑬着。
親族合わせて、G1は
30回挑みながら、
①着の栄誉は勝ち得ていない。
「ディープが抜けた今年こそ、俺らにもG1タイトルを獲らせてくれ!」と、決起してる雰囲気がある現5歳世代だが、
ローゼンクロイツはそれにプラスして、親族の怨念にも似た思いが乗っかっている。今年の古馬G1戦線で、これは脅威になるかもしれない。